収益力を超える債務を抱え、身動きが取れなくなる「過剰債務のわな」。金融機関から追加融資を受けられず、優良な事業資産を生かす投資ができない。そうした悪循環をどう断ち切るか。いくつかの事例を通して、その方法を考える。

 2022年3月、佐渡島と本土を結ぶ唯一の定期航路を運航する佐渡汽船(新潟県佐渡市)が再出発した。

 1913年創業の同社は、第三セクターのはしりとして島の交通を支えていたが、人口減少と高齢化が進み、収益環境が悪化していた。そこにコロナ禍が直撃し、2021年12月期は3期連続の最終赤字と約22億円の債務超過に陥っていた。

外部からの支援で再出発
外部からの支援で再出発
●佐渡汽船の再建スキーム
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 法的整理に入り航路が止まれば地元経済の混乱は避けられない。地元自治体やメインバンクの第四北越銀行らによるスポンサー探しの結果、決まったのが地域振興のコンサルティングなどを手掛ける経営共創基盤(東京・千代田)グループのみちのりホールディングス(HD)だった。

 みちのりHDのトップは、00年代初めに産業再生機構で数々の再生案件を手掛けた松本順氏。「将来の事業価値に応じた投資ができる水準まで負債を圧縮し、経営支援を施せば、企業は再成長に向けて走り出せる」が持論だ。

 負債圧縮で活用したのが資本性の資金投入だ。みちのりHDが総額15億円を出資して約3分の2の議決権を取得。第四北越銀も15億円の第三者割当増資を引き受けた上で、佐渡汽船から同額分の借入金を返済してもらう「デット・エクイティ・スワップ(DES、債権の株式化)」に近い手法でバランスシートを改善した。

 新経営陣が23年12月期の営業利益黒字化に向けまず目指したのが「稼ぐ力」の源泉ともいえる営業キャッシュフローの改善だ。売り上げの約7割を占める旅客輸送を強化すべく、経営効率化、利便性向上に向けたデジタルトランスフォーメーション(DX)投資を進めている。同時に、今まで不足していた佐渡島をPRする営業活動に資金を投じた。

 攻めの投資も再開した。9月に自己資金10億円強を投じて同社3隻目となるカーフェリーを中古で取得。みちのりHD傘下となって以降、初の大型投資だ。フェリー3隻体制でこれまで旅客輸送のみだった新潟県南西部と佐渡島南部を結ぶ航路の貨物輸送が可能となる。松本社長は「コロナ禍前から赤字が続いていた物流部門の効率化が期待できる」と話す。

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