新型コロナウイルス禍に苦しむ企業を救ってきた「ゼロゼロ融資」というカンフル剤。返済が始まれば、経営改善が見通せず「ゾンビ」となった企業があぶり出される。不良債権化が続発する事態を避けようとする、支援機関の闘いは新たな局面に入る。

「今まではやや甘い見積もりも通したが、難しくなってきた。目いっぱい切り詰めて、ギリギリの最低限まで精査してもらえないか」──。新型コロナウイルス禍の第7波に収束の兆しが見えてきた2022年8月末、関東地方で飲食店チェーンを展開する社長は、地方銀行の融資担当者からこう告げられた。
このチェーンが実質的に無利子・無担保の「ゼロゼロ融資」を受けたのは20年夏だった。売上高が前年に比べ4割減る時期が続き、資金繰りに窮して約1500万円を借りた。
21年10月から返済を始められる程度まで、経営は何とか立て直すことができた。新型コロナの感染が再び広がっても、店舗の営業は強く制限されずに済みそうな状況を感じた社長は、「今こそ反転攻勢のチャンス」と考え、7月に入って新たな融資を模索してきた。店舗の一部改装や、提供するメニューのリニューアルに資金の用途を絞り、銀行側に約1000万円を打診した。
しかし事業計画は差し戻された。審査の最終段階ではねつけられたのだった。「このタイミングの拡大路線はまだリスクが相当に高い」。そんな銀行の回答を、社長は「消極的な貸し渋りに遭った」と振り返る。
政府は外国人観光客の受け入れ制限を緩和したり、感染者や濃厚接触者の自宅待機期間の短縮を打ち出したりしている。経済活動の正常化が着々と進む一方、金融機関は「ゼロゼロ融資の後遺症」(メガバンク幹部)に身構えている。
民間金融機関は20年5月~21年3月にゼロゼロ融資の申し込みを受け付けた。その総額は約23兆円まで膨らんだ。融資先の返済が焦げ付けば信用保証協会が肩代わりするし、利子も都道府県が企業の代わりに支払う。「懐を痛めずにじゃぶじゃぶと貸せる、打ち出の小づち」(関西地方の地銀幹部)だから、審査が緩くなっても不思議ではない。
日銀の金融緩和による低金利環境で、金融機関は収益の柱だった融資による利息収入を大きく減らしてきた。預貸を中心とした「本業」が赤字から抜け出せなくなった。
そこに降って湧いたゼロゼロ融資の恩恵は大きかった。21年9月中間決算では、8割を超える地銀が最終損益で増益になった。20年度の貸出金残高は283兆円と前年度比で11.5%も伸びた。
個々の契約ごとにばらつきはあるが、地銀では「今年9月までに約5割の返済が始まっている」(全国地方銀行協会の柴田久会長)状況だ。ただし、売り上げが思うように回復していない企業には、返済できずに破綻に追い込まれる懸念がくすぶる。
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