【先着500人に無料公開!】日経ビジネスは登録会員限定「無料開放」キャンペーンを実施中。評判の高かった特集記事を毎日1本ずつ、先着500名様に無料公開します。12月5日(月)~12月9日(金)は「イーロン・マスクの頭の中」特集です。

  1. ツイッター訴訟の舞台裏 真実を暴く策を立てた「黒幕」 12月5日(月)12時~
  2. すべては「人類を救う」ため 火星移住に全力疾走 裏で支える7人の侍 12月6日(火)12時~
  3. 「信仰者」が米国で急増中 熱狂×ユーチューブで拡散する「マスク教」  12月7日(水)12時~
  4. 異端のリーダーはこう生まれた 周囲を翻弄する「天使」と「悪魔」 12月8日(木)12時~
  5. マスク流リーダーシップ 「紙一重」の情熱が生むビジョンと現場主義  12月9日(金)12時~(今回)

マスク氏のムーブメントは遠く離れた日本にも波及する。テスラと協業したパナソニックから同氏の姿をエンジンに活躍するスタートアップまで。マスク氏のDNAの広がりと、それを生み出すリーダーシップの要諦を追った。

 「どんないいことも時間をかけてはだめだ。とにかく走りながら考えよう」。東京・日本橋馬喰町の元銀行のビルを改修したコンクリート打ちっぱなしのビル。水道のいらない手洗いスタンドなど水処理技術を手掛ける東京大学発のスタートアップ、WOTA(東京・中央)の技術者らにハッパを掛けるのが、社外取締役の山田喜彦氏だ。

 「テスラは日本で働いていた時の体感10倍のスピードで動いていた」。2019年まで在籍した米テスラで感じた肌感覚を若い世代に伝えている。

山田喜彦氏(右)はパナソニック在籍時に、テスラとのEV電池の協業を後押しした。2014年9月、日本で初の納車のイベントでマスク氏と(写真=的野 弘路)
山田喜彦氏(右)はパナソニック在籍時に、テスラとのEV電池の協業を後押しした。2014年9月、日本で初の納車のイベントでマスク氏と(写真=的野 弘路)

 山田氏はパナソニックの副社長としてテスラとの電気自動車(EV)の電池工場の設立を推し進めた張本人だ。退職後、イーロン・マスク氏に誘われギガファクトリーのバイスプレジデントとしてテスラに入社した。

 高度経済成長期に多く敷設された水道管設備は上下水道の維持コストが毎年4兆円の赤字、全体の3割の水道事業者が赤字経営だ。

 WOTAは水道だけに依存しない小規模分散型の水循環システムを手掛け、解決するスタートアップだ。独自開発のセンサーなどを使って水質や装置の状況を監視し、98%以上を再生する水処理ができる。水処理場の10万分の1のサイズで同じ処理レベルにできる、いわば「持ち運べる浄水場」。これが普及すれば、大掛かりな工事や水道のインフラがいらなくなる。「世の中を本気で変えたいと考えて、正面から取り組んでいる人が集まっている。EVの普及でCO2排出を減らそう、と考えていたテスラに通じるものがある」(山田氏)

山田氏が社外取締役を務めるWOTAは水道のない場所に置ける手洗いスタンドや水処理装置を手掛ける(写真=柴 仁人)
山田氏が社外取締役を務めるWOTAは水道のない場所に置ける手洗いスタンドや水処理装置を手掛ける(写真=柴 仁人)

物理限界はどこにある?

 「物理限界はどこにある?」。ギガファクトリーでマスク氏は、常に技術者にこう問いかけていたという。「彼は少しずつ良くする、という考えが全くない。ドラスチックにどう変えていくかを常に考えている」

 例えばベルトコンベヤーの設計。「秒速〇mが最速です」と技術者が説明しても簡単に引き下がらない。「それは本当か?」。誰かが実際に工場で試したのか、2割スピードを上げるとどこが壊れるのか、ボトルネックを無くせば全体をもっと底上げできるのではないか。

 「既存の延長では失敗しづらいが、新たな革新も生まれない。自ら失敗してでもチャレンジするし、『俺が責任取るから早めてみろ』と目の前で部下にやらせる」。溶接ロボットで多数の部品を溶接して車両を製造する従来の手法を根本的に変える超大型鋳造機械による製造手法「ギガプレス」もこうした日々の問答があってこそ生まれたのだろう。

 決めたことを何としてでもやり遂げるマスク氏だが、パート1で見たように、高級車を手掛けてきたテスラの初の量産EV「モデル3」では組み立てラインが生産台数に追いつかなかった。既存の工場では間に合わず、マスク氏は「3週間で組み立ての1ラインを作れ」と大号令を出す。