イーロン・マスク氏の熱狂的な「信仰者」が米国内で増殖している。マスク氏とソーシャルメディアで直接ふれあい人生が変わった人も。なぜマスク氏やその企業は、このような社会現象を生む存在になったのか。

米テキサス州(上、左下)と独ベルリン近郊(右下)の新工場でテスラが開いた開所式には、各地からファンが押し寄せた。招待客のみだったため中に入れずその場でチケットを求める人も(上)(写真=上・左下:AFP/アフロ、右下:ロイター/アフロ)
米テキサス州(上、左下)と独ベルリン近郊(右下)の新工場でテスラが開いた開所式には、各地からファンが押し寄せた。招待客のみだったため中に入れずその場でチケットを求める人も(上)(写真=上・左下:AFP/アフロ、右下:ロイター/アフロ)
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 「君はガリを知っているのかい?スゴいな!」

 2022年4月7日に米テスラが開いた米テキサス州オースティンの巨大EV工場「ギガテキサス」の開所式。既存メディアの取材は受けない方針の同社から工場に入る許可が下りず外で取材していると、集まったテスラやイーロン・マスク氏のファンからこう羨望の目を向けられた。

 ガリとは、テスラの企業分析に定評があるユーチューバー、ガリレオ・ラッセルさんのこと。運営チャンネルの登録者は16万2000人超で、米ニューヨーク大学卒の29歳だ。

 開所式にマスク氏が登場すると聞き、チケットもないのに集まったファンは入れ替わりも考慮するとざっと数千人。居住地もワシントンやコロラドなどさまざまで、テスラ車はもちろん飛行機で駆けつける人までいた。こうしてマスク氏に熱狂するファンのことを、同氏の周囲は「イーロンのファンボーイ」と呼ぶ。

(写真=本人提供)
(写真=本人提供)

 ラッセルさんはそんなファンボーイのカリスマ的存在だ。発端は18年5月にテスラが開いたカンファレンスコール。既存概念にとらわれた機関投資家の質問にいら立ちを隠せなくなっていたマスク氏の目を、パッと開かせたのが彼だった。

 「手持ち現金のすべてをテスラ株に投入してきた」と話すラッセルさんだが、個人投資家が企業のカンファレンスコールに参加することはほぼあり得ない。ところがユーチューブ視聴者の後押しとテスラの投資家向け広報(IR)担当者の理解もあり、この日は特別に参加が許されていた。登場は開始から約40分後。

 「(米アルファベット傘下の)ウェイモが特定市場を対象に自動運転を使ったタクシーサービスを始めます。テスラ・ネットワークの進捗を教えてください」。テスラ・ネットワークとは、自動運転車両を使い、所有者が使用していない間に誰でも呼び出して利用できるようにする構想だ。稼働率を100%に近づけることでより環境に優しい世の中にしたいマスク氏の肝煎りプロジェクトだった。

 「君が面白い質問を続ける限り誰も君を止めないよ。続けてくれ」。当時の記録から、マスク氏の興奮が伝わってくる。この後、ラッセルさんは20分以上にわたって質問を繰り出し、マスク氏は上機嫌で対応した。

 翌月、2人は同社の株主総会で初対面を果たし、その後もマスク氏が自宅に招くなど交流を続けている。

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