【先着500人に無料公開!】日経ビジネスは登録会員限定「無料開放」キャンペーンを実施中。評判の高かった特集記事を毎日1本ずつ、先着500名様に無料公開します。12月5日(月)~12月9日(金)は「イーロン・マスクの頭の中」特集です。

  1. ツイッター訴訟の舞台裏 真実を暴く策を立てた「黒幕」 12月5日(月)12時~
  2. すべては「人類を救う」ため 火星移住に全力疾走 裏で支える7人の侍 12月6日(火)12時~(今回)
  3. 「信仰者」が米国で急増中 熱狂×ユーチューブで拡散する「マスク教」  12月7日(水)12時~
  4. 異端のリーダーはこう生まれた 周囲を翻弄する「天使」と「悪魔」 12月8日(木)12時~
  5. マスク流リーダーシップ 「紙一重」の情熱が生むビジョンと現場主義  12月9日(金)12時~

マスク氏の頭の中のビジョンには、優秀な人材を引き付けてやまない求心力がある。成果を出せない部下を容赦なく切り捨てるのも、目的達成に足かせは要らないからだ。なぜそこまでがむしゃらに走り続けられるのか。

 誰もが実現不可能と捉えてきたビジネスを型破りな発想で可能にしてきた。その代表格であるテスラとスペースXの成功を裏付ける数字は、今や誰もが認めざるを得ない。

 テスラの2021年12月期通期の売上高は前年同期比71%増の538億2300万ドルで、売上高営業利益率は同5.8ポイント増の12.1%だった。22年1~3月期の営業利益率は19.2%、4~6月期は14.6%。10%を超えれば御の字とされる製造業においては高収益企業といえる。

 テスラが時価総額でトヨタ超えを果たしたことは有名だが、非上場のスペースXも負けていない。22年5月に米ブルームバーグなどが報じた記事によると、同社の評価額は同月時点で1250億ドルとなったもよう。これは時価総額で宇宙業界2位の米ロッキード・マーチンを上回る。

市場からの期待は既存企業をしのぐ
市場からの期待は既存企業をしのぐ
●世界の航空宇宙防衛メーカーの時価総額 注:業種区分が「航空宇宙防衛」の上場企業を対象に7月27日時点で算出。米ドルベース。スペースXの評価額は米メディアから 出典:QUICK・ファクトセット(写真=Nasa/Planet Pix via ZUMA Press Wire/共同通信イメージズ)
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 マスク氏はなぜ手掛ける事業が多岐にわたるのに、無謀な挑戦を現実化して事業を成功に導けるのか。その大きな理由に、手掛ける事業のすべてが同じビジョンの上にあり、互いに関連していることがある。

 その相関関係を下の図に示した。

手掛ける事業はすべてマスク氏の頭でつながっている
手掛ける事業はすべてマスク氏の頭でつながっている
●経営企業の相関図と関係者の役割(写真=ベゾス氏:Blue Origin/INSTARimages/アフロ、ゲイツ氏:AP/アフロ、プーチン氏:ロイター/アフロ、カーパシー氏:San Francisco Chronicle/Hearst Newspapers via Getty Images/Getty Images、バーチャル氏:Bloomberg/Getty Images、トランプ氏:AP/アフロ、ドーシー氏:AFP/アフロ、キンバル氏:REX/アフロ、ジリス氏:AP/アフロ、ショットウェル氏:ロイター/アフロ、スピロ氏:Jemal Countess/Getty Images、マスク氏:Anadolu Agency/Getty Images)
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手掛ける領域を3つに限定

 まず踏まえておきたいのは、いずれの事業でもマスク氏が目指すのは「人類の永続的な繁栄」にある点だ。幼いころからSF小説やSF映画を好み、人類の未来に思いをはせた。1989年に出身地の南アフリカからカナダに移住し、同地や米国の大学で経済や物理、エンジニアリングを学んでいた頃から、「人類の未来に影響を及ぼす技術は『インターネット』『クリーンエネルギー』『宇宙開発』の3つ」と予見していた。

 壮大な構想の中で大きな役割を担うのが、やはりテスラとスペースXだ。マスク氏はあらゆる場所で、テスラは地球環境保護、スペースXは宇宙への人類の生活圏拡大と、役割分担していると説明している。

 2002年にスペースXを立ち上げ、テスラに出資して会長に就任したのが04年。06年に太陽光発電のソーラーシティに出資し、後にテスラ傘下に収めた。太陽光で発電した電力を電気自動車(EV)などに蓄えれば、走行はもちろん家庭の電源としても使える。スペースXでは、地球のどこからでもインターネットを使えるようにする衛星通信システム、スターリンクの運用を20年に始めた。衛星をスペースXのロケットで打ち上げられるので相性がいい。どの事業も前出の3つの技術領域に関連する。

 少し異質に見えるのが、16年に設立した地下トンネルを使った高速輸送システムのボーリング・カンパニーと、脳の機能拡張を目指すブレインテックのニューラリンクだ。前者は、テスラやスペースXと同じ「輸送インフラ」と考えれば納得がいく。だが、ニューラリンクについては、テスラが今、開発に力を入れているヒト型ロボット「テスラボット」や、市場投入が噂されているテスラの高機能スマホ「Pi」の存在を踏まえると狙いが見えてくる。ニューラリンクで開発する脳の拡張機能は、ボットやスマホの「操作手段」にしようとしているとみられる。すべてに共通するのは、人類が火星に移住した後の人や物の輸送や人と人とのコミュニケーションに関連していることだ。ツイッターの買収劇や暗号資産(仮想通貨)へのこだわりも、移住後を想定した「インフラ」と見ているのだろう。

 マスク氏が描くこの未来予想図ならぬ「未来実現図」は、彼を取り巻くファンたちの信仰の対象になっている。同氏はこの目標を達成するためなら、狂気とも言える執着で現場の技術者を叱咤(しった)し、プロの投資家や優秀な経営陣、科学者たちを味方に付け、まい進していく。

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