リスキリング、越境学習……。くすぶる50代を活性化する取り組みが盛んだ。「飼い殺し」は雇い主にとっても、働き手本人にとっても不幸の種でしかない。人生100年時代が現実になる中、50代でも学びと気付きが生きる糧となる。

「リスキルから就業まで一体的に提供され、企業にミドルレベルのデジタル人材が増えます」
6月16日に東京都港区で開かれた、官民が連携して労働者のリスキリング(学び直し)を支援する団体「日本リスキリングコンソーシアム」の設立イベント。登壇した経済産業省の藤田清太郎・商務情報政策局IT戦略担当審議官は、40~50代の活用に対する期待を語った。
政府は今年の「経済財政運営と改革の基本方針」(骨太の方針)と、岸田文雄首相が掲げる「新しい資本主義」の実行計画で、「人への投資」に重点を置いた。2024年度までの3年間で4000億円を投じる。テーマに据えたのは、社会人のリスキリングや成長分野への労働移動、兼業・副業の促進、生涯教育の環境整備などだ。
日本の企業は人件費を経営リスクと捉え、負担の軽減に努めてきた。働き手への投資は、今や先進国の中で最低水準だ。厚生労働省の推計によると、GDP(国内総生産)に占める企業の能力開発費の割合は、10~14年の平均で0.1%にとどまる。欧米は1990年代から1~2%で推移してきたが、日本は右肩下がりが続いたため差が広がった。
企業の競争力の源は本来、社員の技術やアイデアに宿っているものだ。積極的な人材育成を怠ってきた結果、日本企業に何が起きたか。経産省幹部は「世界的なデジタル革命を主導するどころか、追いつくのがやっとの惨状。資料のペーパーレス化程度で満足し、本質的なデジタルトランスフォーメーション(DX)に踏み込まないケースが珍しくない」と嘆く。
技術革新人材を50万人
IT(情報技術)の急速な進展は、企業のビジネスモデルの賞味期限を短くした。それは企業の短命化にも直結しやすい。官民が「ミドルクラスの再戦力化」(別の経産省幹部)を念頭にタッグを組むのは、終身雇用に守られる中で自身のスキルを磨いたり広げたりしてこなかった層に危機感が広がっているとみるからだ。
日本リスキリングコンソーシアムは発足時、グーグル日本法人や省庁など計49企業・団体が名を連ねた。人工知能やクラウド、マーケティング、インターネットセキュリティー、データ分析といった分野のトレーニングプログラムを提供する。年齢制限は設けず、想定する2026年までの活動期間で「ビジネスや組織にイノベーション(技術革新)をもたらす人材を50万人育成する」とうたう。
Powered by リゾーム?