世界に広がるDX(デジタルトランスフォーメーション)の大きなうねり。コンサルティングやIT、電機各社が産業の垣根を越えて競い合う。日立製作所といえども挑戦者であることを忘れてはならない。

東京・品川区大崎になかなか予約が取れない人気のショールームがある。独シーメンス日本法人本社の一角にあるラボ施設だ。世界約40カ所に展開している顧客向けの体験型施設で、日本では2022年6月に開いた。リアルとデジタルの融合技術「デジタルツイン」の活用の仕方を学べる。

「どうぞ見比べてください。わずかなズレもありません」。シーメンス・デジタルインダストリーズの鴫原琢部長が、ディスプレー上に映る2台の作業用アームロボットについて解説する。1台は室内にある実物のロボットと連動し、もう1台は仮想空間上のシミュレーションの中で動く。
製造業では製造工程の改良や設備改修をする場合、仮想空間に実際の工場のデータを使った「バーチャル工場」を構築してシミュレーションする企業が増えている。高い精度でデータを連携させることが重要で、あらゆるモノがネットにつながる「IoT」ソリューションに強いシーメンスが得意とする分野だ。
デジタル領域にいち早く転換
世界の電機業界の中で、シーメンスはいち早くデジタル領域へと事業転換を成功させた。利益率の高いヘルスケア部門を上場させて、その経営資源をITやソフトウエアなどデジタル事業強化に惜しみなく投資した。スイス食品大手ネスレの工場を自動化するなど世界製造業大手を顧客に抱え、日本では豊田自動織機とAI(人工知能)を使った自動車用部品の不良予測で協業している。ITソリューションの世界展開に社運をかける日立も、シーメンスを長年ベンチマークしている。
「米アクセンチュア、米コグニザント、インドのタタ・コンサルタンシー・サービシズ(TCS)、独シーメンス、仏シュナイダーエレクトリック……」。日立の小島啓二社長兼CEO(最高経営責任者)はDX案件の獲得でぶつかるだろう競争相手の名前を次々と挙げる。他にクラウド大手アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)などがあり、日立を待ち受けるライバルには異業種の巨大企業も目立つ。
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