個性あふれる視点を持ち、行動力の高い社員は、なぜか「異端児」と呼ばれやすい。とりわけ、長い歴史を持つ企業や金融機関などでは、居場所なく退職するケースもある。だが、お堅い伝統企業で今、異端児を積極的に活用する動きが出始めている。

(写真=吉成 大輔)
(写真=吉成 大輔)

異端児 FILE 1 Masashi Shinkai

 損害保険ジャパン  
 業務変更でも「趣味」で継続し、事業化

 2022年2月、損害保険ジャパンは自動運転車専用の保険を開発した。持ち株会社のSOMPOホールディングス(HD)は中期経営計画の中で自動運転分野を中長期的な収益拡大の戦略事業として位置付け、20年までに自動運転システム開発のティアフォー(名古屋市)に約100億円を出資している。

 SOMPOHDが巨額を投じて自動運転ビジネスに注力する背景は、一人の「異端児」を抜きにして語れない。

(写真=吉成 大輔)
(写真=吉成 大輔)

 遡ること6年前、損保ジャパンの新海正史(48歳)は新たな業務を目の前に腕が鳴った。日本各地で一貫して自動車保険の営業を担い、入社19年目にして初めて本社勤務となったのだ。与えられた仕事は、自動車メーカーと協業し、技術革新に合わせた新たな保険商品やビジネスモデルを生み出すことだった。

 損保業界にとって、自動運転技術の進歩は脅威といえる。ヒューマンエラーを排除する自動運転が広がれば事故の発生リスクは大幅に下がり、損保会社の一番の収益源である自動車保険の存在意義は低下しかねない。

 一方で、新たな可能性も感じていた。

 保険は万が一の事故への備えを提供するもの。利用者からすれば、そもそも事故に遭わないのに越したことはない。本質的に利用者が求めているソリューションを保険会社として提供できていない──。自動運転技術への関心を深めるうちに、営業現場で感じていた矛盾が解消される未来図が浮かび上がってきた。

 自動運転社会の実現に向け、損保会社が果たせる役割は十分にあると気付いた。商品を設計する際、保険会社はリスクの度合いを評価し、保険料率を決めていく。事故に関するデータも豊富に有している。「安心」を担保するコールセンターも持っている。こうしたノウハウやデータを自動運転のシステム開発を手掛ける企業などに提供すれば、事故が大幅に減る社会の実現に寄与できる。

 ただ事業化に向けた道のりは平坦ではなかった。まず、自動運転技術の情報が簡単には集まらない。自動車メーカーは手の内をなかなか明かさない。100人以上の識者や経営者と話をするうちに、現在の協業相手のティアフォーと巡り合う。同社は「自動運転の民主化」というビジョンを掲げ、開発する自動運転システムはオープンソース化し、様々な企業と共同開発を進めていた。

 これなら損保ジャパンも入り込む余地がある。新海はティアフォーなどが全国で実施する実証実験を追いかけ回し、協業に向けたパイプを着実につくっていた。そんな矢先の17年春、今度は社内で逆風が吹く。所属部署の方針が変わり、新海の担当業務も変更となったのだ。

 「自動運転は君の趣味だろう」。新たに就いた上司は新海にこう説き、自動運転に関する取り組みをやめるよう指示した。ならばと、あくまで趣味として、業務時間外にティアフォーなどとの関わりを持ち続けた。

 興味を抱いた一部社員の協力もあって、各地で進む公道上での無人運転の実証実験に携わっていくも、社内に居場所は見つからない。状況を打開したのは18年秋。「保険のいらない世界を目指す」と社内外で公言していたSOMPOHDの当時のグループCDO(最高デジタル責任者)、楢崎浩一への直談判がきっかけだ。

 楢崎は話を聞くとすぐに当時の損害保険ジャパン日本興亜社長・西澤敬二(現会長)へのプレゼンの場を設定。西澤は新海から自動運転関連事業の意義を説かれるとすぐにこう応えた。「課長になって、自動運転チームを組んで引っ張っていってくれ」

 多くの企業と同じく、大規模な人事異動は年1回、4月に実施される慣習だが、それを待たず、18年12月には新海は正式に課長となり、部下が4人付くこととなる。ひたむきさが実り、趣味は業務へと戻った。