EVの未来に懸けているのは、何も自動車メーカーだけでない。宝の山を生み出す電池産業が、世界中のヒトモノカネを呼び込み始めた。産業構造の転換をクルマだけで捉えていては、未来のチャンスを失いかねない。

 世界一の電気自動車(EV)販売比率となったノルウェーで今、電池産業にイノベーションを起こそうとしている日本人がいる。フレイル・バッテリーで最高技術責任者(CTO)を務める川口竜太氏だ。

ノルウェーの新興電池企業「フレイル・バッテリー」で最高技術責任者(CTO)を務める川口竜太氏。およそ25年間、電池産業に関わる中で、量産の難しさを痛感してきた
ノルウェーの新興電池企業「フレイル・バッテリー」で最高技術責任者(CTO)を務める川口竜太氏。およそ25年間、電池産業に関わる中で、量産の難しさを痛感してきた

 フレイルは、自前で技術を開発せず、パートナーと共同で電池の量産を目指すというユニークなビジネスモデルを持つ。2018年の創業で、量産前にもかかわらず21年に米ニューヨーク証券取引所に上場。独フォルクスワーゲン(VW)も出資する米電池スタートアップ、24Mテクノロジーズと提携し、23年からノルウェーで定置用電池の生産を始める。その先に狙うのがEV用電池の量産だ。

 川口氏はなぜ、異色のビジネスモデルを持つフレイルを選んだのか。そのキャリアや選択の背景に、EV産業の問題点と可能性が表れている。

 川口氏は豊田自動織機と日産自動車、英ダイソンでキャリアを積み、10年間は燃料電池の開発、15年間はEVや電池の開発や量産などを経験した。日産時代にはNECと共同出資の電池会社「オートモーティブエナジーサプライ(AESC)」にも出向したほか、米国で次世代電池の立ち上げにも従事。17年に日産を退社し、ダイソンのEV事業の立ち上げと同時に入社し、同社でも開発をリードするポジションで働いた。

 長く電池事業に関わる中で、川口氏は電池産業の2つの課題を見据えている。一つは「電池の量産の難しさ」だ。日産やAESCで電池の量産に苦労し、さらにスケールアップをするのはかなりの難しさだった。次世代電池の生産でも四苦八苦した。

 こうした経験をしてきた川口氏からすると、現状の電池不足は当然の帰結に見える。新興勢だけでなく、既存の大手電池メーカーも量産が遅れ、歩留まりの改善に苦労している。「装置だけでなく電池技術者がいないと量産できない。技術者の奪い合いの状況にあり、どの企業も人材が足りない」と指摘する。

 もう一つの課題は、「二酸化炭素(CO2)排出量の削減」だ。EV普及の推進力の一つがCO2排出量の少なさにあるが、電池の生産時には多くのCO2を排出する。

 「フレイルはこの2つの大きな課題を解決できる」と川口氏は力を込める。同社は提携企業と共に電池技術者を育成する方針だ。「ノルウェーの教育水準は高く、石油化学や金属製錬などの工場運営にたけた人材が豊富だ」と言う。

 ノルウェーは水力発電由来の電力が豊富という地の利があり、EV普及率でも世界最高レベル。ここに生産技術を持つ電池メーカーを誘致して、共同で電池生産を立ち上げようとしているのだ。フレイルはプロジェクトマネジメントや現地人材の雇用、政府との交渉を担っていく。

 「豊富な人材」と「CO2排出量の削減」という2枚看板を掲げ、提携企業を探しに世界中を飛び回っている川口氏。技術力はあるものの、コストやCO2の面で不利になる可能性がある日本企業には特に、「一緒に電池を作りましょう」と呼びかけている。

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