“東京のつくり方”、売ります

 海外が注目するコンテンツとしての東京。街に蓄積された都市計画の知見にもビジネスチャンスが潜んでいる。鉄道を中心とした公共交通が高度に発達した東京の街づくりが、世界で高く評価されているのだ。

 国内トップクラスの設計事務所である日建設計(東京・千代田)は、ターミナル駅を中核とする都市整備の技術やノウハウを積極的に海外展開している。同社はこれまでにJRや私鉄、地下鉄が複雑に交錯する東京で、駅に流入した乗降客を街に誘導し、周辺地域の活動を豊かにする都市計画のマスタープランを作成してきた。

 公共交通を軸に据えた街づくりを「公共交通指向型都市開発(TOD)」という。同社執行役員の田中亙氏は「20年1月から22年6月までに中国で受託したTOD関連のプロジェクトは88件に上る」と胸を張る。

 実際、中国では都市間を結ぶ野心的な鉄道計画に拍車がかかっている。鉄道の延伸と歩調を合わせ、主要都市では駅と周辺地域が一体化した複合計画が増えているのだ。

 日建設計は東京駅や渋谷駅の周辺マスタープラン作成で培った経験を生かし、数多くの海外TODコンペで当選を勝ち取ってきた。同社の提案で特に評価が高いのが、公共交通が交差する空間を複層的に設計し、スムーズな人の流れをつくる知見だ。

「アーバン・コア」の断面構成イメージ。渋谷駅周辺の歩行者の回遊性を高めるために計画された。地下から地上、空中でビル間を連結するスカイデッキまで縦の動線に特徴がある(イラスト=日建設計)
「アーバン・コア」の断面構成イメージ。渋谷駅周辺の歩行者の回遊性を高めるために計画された。地下から地上、空中でビル間を連結するスカイデッキまで縦の動線に特徴がある(イラスト=日建設計)

 例えば、重慶市で20年に竣工した「重慶沙坪坝駅」は、歩行者の回遊性を高めるため、渋谷駅周辺の再開発の仕組みを参考にした。12年に開業した商業施設「渋谷ヒカリエ」や、19年竣工の「渋谷スクランブルスクエア」にも採用された「アーバン・コア」がそれだ。地下から地上、そしてスカイデッキで連結する空中までを縦の動線で結ぶ都市計画だ。

日建設計が関わった中国・重慶市の「重慶沙坪坝駅」。1日40万人の利用者がスムーズに移動できるよう東京で培った知見を応用した(写真=大画幅工作室)
日建設計が関わった中国・重慶市の「重慶沙坪坝駅」。1日40万人の利用者がスムーズに移動できるよう東京で培った知見を応用した(写真=大画幅工作室)
(イラスト=日建設計)
(イラスト=日建設計)

 重慶から西に10kmほど離れた副都心である沙坪坝は、重慶大学などの教育機関が集まる若者の街として活気がある。四川省の省都である成都から高速鉄道が乗り入れたことで交通ハブとなり、駅の利用者は1日約40万人に膨れ上がった。

 「かつての中国は鉄道駅と他の交通機関がうまくつながっておらず、人流が分断されていた」と田中氏は説明する。そこで、重慶沙坪坝駅では、地下8階から地下1階に地下鉄や高速鉄道、バスターミナルを立体的に配置し、有効に連絡させた。

 加えて、地下7階から地上2階までを高さ45m、幅20mの吹き抜け空間にして自然光が地下空間まで届くようにした。こうした発想も首都圏の駅で培った知恵が生きている。「地下鉄駅のホームから地上の商業施設まで縦に結ぶアイデアは、04年に開業した『みなとみらい駅』(横浜高速鉄道みなとみらい線)で既に実現している」(田中氏)。中国に限らず、こうした東京圏のTODを見学したいという国は増えているという。

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