実質値引きでテナント誘致

注:対象は千代田・中央・港・新宿・渋谷の大規模ビル。CBREまとめ、一部推定含む
注:対象は千代田・中央・港・新宿・渋谷の大規模ビル。CBREまとめ、一部推定含む
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 一つはテナント誘致のために提供される「フリーレント(家賃無料期間)」が長期化して「実質値引き」となり、収益性が低下するオフィスビルが都心で増えることだ。ミッドタウン八重洲の関係者は「フリーレントが長期化することで、オフィス全体の賃料収入がフルで寄与するのは2年以上先になる可能性が出てきた」とみる。事業用不動産の投資顧問などを手掛けるCBREがまとめたデータでは、都心の大規模ビルの賃料が中長期的に低下する傾向が浮かぶ。

注:対象は東京23区内のオフィス向け延べ床面積1万m2以上の物件。森ビルまとめ
注:対象は東京23区内のオフィス向け延べ床面積1万m2以上の物件。森ビルまとめ
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 もう一つは、デベロッパーによるテナント企業の誘致競争が激化した結果、テナントが転出した元のオフィスビルに新たなテナントが入らない問題だ。入居者が抜けた後に空室がなかなか埋まらない状況を、不動産用語で「2次空室」と呼ぶ。こうした問題は23年に供給される新規オフィスへの移転ラッシュが一段落し、退去後の原状回復工事などが終わった後に深刻化するとみられる。

 既に2次空室が顕在化した実例もある。ソフトバンクグループが21年に退去した「東京汐留ビルディング」は、約1年がたち一部のフロアは借り手がついたが、6月時点でなお空室が残る。NTTグループの再編に伴ってNTTドコモが大幅に床を削減する見通しの「赤坂インターシティAIR」も関係者が注目する。かつての最先端ビルも、新築ビルに比べれば相対的に魅力度が低下する。

 一等地の大規模ビル同士の競争激化で、都内再開発の優勝劣敗が鮮明になる可能性が出ているのだ。中規模以下のビルは「大規模ビルと顧客層が異なる」(トーセイの山口誠一郎社長)との見立てが多いものの、テナント誘致合戦が巡り巡って波及する懸念は、なお残る。

 不動産業界も市況の悪化に振り回されるだけではない。新たな需要を取り込もうと、変わり種の賃貸手法も現れた。その一つが「曜日貸し」だ。曜日別に貸し出すレンタルオフィスで、シェアオフィスほど自由ではないが、ずっとオフィスを借り続けるほどのニーズがない企業にとっての新たな選択肢となる。

「曜日貸し」に潜在需要

 都心で中小型オフィスビルに特化した不動産再生と活用を手掛けるサンフロンティア不動産が20年11月に東京・四谷で開業したオフィスビル「A YOTSUYA」では、曜日貸しのフロア稼働率は8割となり、月決めの賃貸形式よりも高いという。

 「コミュニケーションやブレーンストーミングの機会を設けたい需要が多い」(サンフロンティア不動産の猪俣俊輔氏)。フルリモート体制のIT企業でも、週に1回くらいは一堂に会して意思疎通しないと仕事のパフォーマンスが上がらないとの問題意識も背景にある。リアルの効用の見直しの一環だ。