コロナ禍で定着したテレワークが、一等地のオフィスビル需要に影を落とす。都内各所の再開発によりビルが大量供給される「2023年問題」が目前だ。山積する課題。東京は新しい需要を喚起してさらなる成長ができるだろうか。

東京が衰退するかもしれない──。そんな不安を抱かせる統計が2022年に入り明らかになった。総務省がまとめた住民基本台帳に基づく21年の「人口移動報告」で公表されたデータだ。東京23区から転出した人の数が転入者を1万4828人も上回り、神奈川県や埼玉県などの近隣県に都民が流出したと分かったのだ。比較可能な14年以降で「転出超過」は初めて。過去のデータも含めれば実に25年ぶりのことだ。
21年に江東区から千葉県に転居した福田恵さん(30、仮名)は、「テレワークの定着で都心のオフィスに出勤する必要性が減った。それならば、家賃や物件価格の安い地域に住んだ方がいいと考えた」と話す。福田さんは共働きで2児の母でもある。子育て環境も考慮して東京を離れたという。新型コロナウイルス禍で加速した働き方改革が、人々に東京脱出の選択肢を与えている。
変調の兆しは都民の居住地選びに限らない。多くの企業を受け入れ、人々が働くオフィスの立地でも「東京である必要性」が問い直されている。それは、都心部の一等地でも同じだ。
東京駅前オフィスが埋まらない
「あれほどの一等地なのに、借り手企業(テナント)探しに苦労しているらしい」
不動産関係者の間でそんな噂が飛び交う複合ビルが「東京ミッドタウン八重洲」。東京駅前で建設が進む地上45階建ての超高層ビルを中心とした街区だ。6月に複数の関係者に話を聞いたところ「8月竣工で完成間際にもかかわらず、目玉の超高層ビルのオフィスフロア(推定延べ床面積約13万m2)のうち半分程度しかテナントが決まっていない」という。
新型コロナウイルス禍の前は、一等地の大型新築ビルならば売り手市場だった。高い賃料を設定してもテナントが飛びつき、早い段階で募集面積が埋まった。「東京駅前の好立地で、これほどテナント集めに苦戦する状況は、近年では珍しい」(不動産投資を手掛けるファンドの幹部)といった声も聞かれる。
テナント集めの難しさに加え、目先には不動産関係者の心胆を寒からしめる状況が控えている。都心部での大規模複合開発プロジェクトの完成が相次ぐ「2023年問題」だ。
8月のミッドタウン八重洲を手始めに、23年には「虎ノ門・麻布台プロジェクト」や「虎ノ門ヒルズ ステーションタワー」「東京三田再開発プロジェクト・オフィスタワー」「渋谷駅桜丘口地区市街地再開発事業」など、大規模オフィスを備えた再開発の竣工が相次ぐ。オフィスの供給量は大規模ビルに限っても22年の約48万m2から23年には128万m2に跳ね上がる見通しだ。
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