経済安全保障を最前線で支えるのは企業。責務が生じ、国の関与も強くなる。半面、リスク軽減で先んじれば、サプライチェーン上で優位性を構築できる。もともと「安心、安全」は日本企業のお家芸。新時代のリスク管理が問われている。

あらゆる電子機器に使われ、デジタル社会や脱炭素社会の基盤を担う半導体。国は「安全保障に直結する死活的に重要な戦略物資・技術」(萩生田光一経済産業相)に位置付け、その国内生産拡大を後押しする。
福岡県筑後市では半導体大手ロームが工場を増強し、次世代素材の炭化ケイ素(SiC)を使ったパワー半導体の生産棟を建設した。国内工場の増設は14年ぶりとなり、生産能力を2026年3月期には従来比で6倍に増やす。「SiCパワー半導体は電気自動車に搭載すると、電力効率が非常に高くなる。市場の期待も高い」。次世代パワー半導体を製造できる企業は世界でも数少ない。経済安保という地殻変動が起きる中、ロームの松本功社長は世界シェア首位を狙う。

松本社長の自信を裏付けるのが、ロームが世界一と誇る安定供給力だ。ロームは1995年の阪神大震災、2011年の東日本大震災とタイの洪水で各地の工場が被災した。「二度と生産ラインを止めないためにはどうしたらいいか。過去の教訓を最大限生かして課題解決策を講じたのが、この筑後工場だ」と胸を張る。
100年に1度の大雨を想定した浸水対策を施し、115基の免震装置を備え、火災予兆や消火のシステム、バックアップ発電などあらゆる装備が整っている。生産自動化を徹底したことで感染症が拡大する状況下でも製品供給を継続できる。

経済安全保障を第一線で支えるのは企業。推進法の成立を待つまでもなく、先端企業は動き始めている。
自動車部品大手デンソーは、不確実な「時代の先」を読むことに力を入れる。活動の中心が21年1月に立ち上げた「経済安全保障室」だ。輸出管理、調達、情報セキュリティーなど各分野の精鋭を約20人集めた組織で、「米中対立や輸出規制が強化される中で、経済安保リスクが高まっていることに対応した」(同社)。
政府関係機関や在外公館、商社、金融などと連携して、国際情勢で不穏な動きが出てきていないかなどを調べる。並行して、取引先企業とも連携して、原材料から自動車部品になるまでのサプライチェーン(供給網)上の弱い部分を把握。それらを関連付けて、リスクの高まりを察知し、供給網を強固なものにしていく。
安心安全を強みとするのは、かねて日本企業のお家芸だった。ロームやデンソーの取り組みは、強みに磨きをかけ、不確実極まる現代においても突破口にしようという試みだ。
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