なぜ今、重要性が高まっているのか。安全保障と経済はいかなる関係にあるのか。サイバーセキュリティーとインテリジェンスの専門家が「経済安全保障」を語る。

手塚 悟[慶応義塾大学 教授]
ウクライナ大統領の「つぶやき」から学ぶこと

手塚 悟(てづか・さとる)
慶応義塾大学 教授
専門はサイバーセキュリティー、情報セキュリティー。1984年に慶応義塾大学を卒業し、日立製作所に入社。2020年度総務省「情報通信月間」総務大臣表彰や、13年度情報セキュリティ文化賞など受賞多数。東京工科大学教授、慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科特任教授を歴任。(写真=加藤 康)

 ウクライナの通信インフラの強じんさに驚かされる。ゼレンスキー大統領は今も、ツイッターで日に何度もつぶやいている。米議会や日本の国会向けの演説も途切れることなく流れた。ロシア軍は当然、通信網の遮断を試みているだろうが。

 なぜ、それほど強じんなのか。それは、クリミア半島を併合されたのに続き、ロシアに電力網をサイバー攻撃され痛い目に遭ってきたからだ。強じんな通信網の裏には、さらに堅固な電力網が存在している。

 ウクライナは2015年と16年に大停電に見舞われた。15年12月に起きた大停電はウクライナ西部で暮らす22万5000世帯を暗闇に陥れた。16年12月には首都キーウ(キエフ)が暗黒世界を経験した。

 原因はロシアによるサイバー攻撃だった。ウクライナはソ連(当時)が崩壊するまで同国を構成する共和国だったから、電力網はロシア製だ。ロシアは当然、その脆弱性のありかを知り抜いている。

 痛い目に遭ったウクライナは電力網の大改造に乗り出した。第1は、米国が使用している不正アクセス防止の仕組みの導入。これにより、ロシアによるサイバー攻撃に対して障壁を設けた。

この記事は会員登録で続きをご覧いただけます

残り1659文字 / 全文2428文字

日経ビジネス電子版有料会員なら

人気コラム、特集…すべての記事が読み放題

ウェビナー日経ビジネスLIVEにも参加し放題

バックナンバー11年分が読み放題

この記事はシリーズ「経済安保とは何か 分断する世界で生き残る知恵」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。