この記事は日経ビジネス電子版に『リチウムなど重要素材の40%を「権威主義国」が握る』(6月28日)として配信した記事を再編集して雑誌『日経ビジネス』7月4日号に掲載するものです。
日本は資源の外部依存度が高く、供給網は世界にまたがる。20世紀はグローバル化で繁栄したが、権威主義の台頭などリスクは変容した。経済基盤をより強固にするにはどうすればいいか、安全保障のテーマは尽きない。
物流大手のNIPPON EXPRESSホールディングス(NXHD)は4月からロシアを避けて中国から欧州まで物資を輸送するサービスを新たに始めた。ウクライナ侵攻後、ロシア経由ルートを不安視する顧客が増えている。このため、カザフスタンを経由してカスピ海を渡る事業継続計画(BCP)用輸送ルートとして利用を想定する(上の図)。国際貨物列車、海上輸送、鉄道やトラックと様々な輸送手段を組み合わせて、中国の西安からドイツ西部のデュイスブルクまで50~55日かかる。ロシア経由ルートは約30日だったため、輸送期間は約2倍に延びてしまうが、利用を希望する顧客は多い。「少し時間はかかっても確実に届けられるルートで運んでほしい」からだという。
「企業が物流に求める価値がこれまでのコスト、スピードだけから確実性や安全も含めて多様化している」(NXHD)。このため同社では不測の事態に備えて、世界的にBCP用輸送ルートを開発しようと検討を重ねている。
他国への依存がリスクに
グローバル資本主義の拡大によって企業がコストを重視した結果、産業構造は国境をまたいだ水平分業型になりサプライチェーン(供給網)が網の目のように広がった。
だが、国際情勢は変わる。グローバル化の反動として、世界的に保護主義が広がりつつある。イデオロギーもからみ、世界経済は民主主義の西側と、権威主義国とに二分するブロック化が進む可能性がある。こうした国際環境の変化を受けて、経済安全保障という“変数”が浮上した。
同分野が専門の同志社大学の村山裕三名誉教授は「グローバル化の時代は、他国に『依存』するのは良いことだった。市場が広がれば、ある意味で戦争も抑止できる、という考え方が主流だった」と解説する。だが、米国と中国の覇権争いが勃発し、そしてロシアによるウクライナ侵攻が決定打となり、世界各地で供給網が大混乱に陥っている。覇権主義や権威主義、一党独裁のような国家に対して「依存することがリスクそのものになり、従来から価値観が大きく変容した」と語る。
権威主義国にデジタル素材
日本経済が内包するもろさを象徴するデータがある。三菱総合研究所が中国やロシア、中東など権威主義国とされた52カ国に日本がどれだけ依存しているかを調査したところ、電気自動車(EV)に搭載するリチウムイオン電池に使う酸化リチウムやレアアース、半導体製造に欠かせないフッ化水素やシリコンなど、多数の重要素材を中国など特定の「権威主義国」からの輸入に頼っていることが判明した。日本の輸入に占める権威主義国からの比率を見ると2000年には30%だったが、この20年で大きく高まり、20年には10ポイント上昇して40%に達した。
三菱総研の森重彰浩シニアエコノミストは「国際情勢で緊張が高まれば、恣意的に特定品目に輸出規制や制裁をかける動きが出て、調達途絶リスクが突然高まる恐れもある。企業には調達網の弱点の把握や、多元化などの取り組みが求められる」と警鐘を鳴らす。
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