先進的な日本企業が量子コンピューターを使い始めた。素材開発、運送ルート検索、勤務シフト策定など広い領域で劇的な効果を生むと期待される。各社の取り組みから、私たちの暮らしがどのように変わるのか占ってみよう。

 量子コンピューターが本格的に使われる時代を迎えた時、私たちの暮らしは一体どのように変わるのか。スーパーコンピューターが社会にもたらした変革を考えれば、その答えが見えてくる。

 スパコンは自動車エンジンの設計や、気候変動の予測、原子炉内で起きる核反応の再現・分析といった用途に使われている。普段はあまり意識することはないが、便利で高度な暮らしを陰ながら支える。量子コンピューターも同じ。さらに特定の領域ではスパコンをはるかに上回る性能を発揮すると期待されており、縁の下の力持ちとして大活躍しそうだ。

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短期間で高性能な素材開発

 三菱ケミカルの研究開発部門に所属する高チ上席主幹研究員は、「量子コンピューターで素材開発の世界は10倍の速さで進化を始める」と語る。同社は現在、高性能な新素材の開発にスパコンを使用。どんな物質をどのように混ぜ合わせればよさそうかをスパコンで計算、候補を絞ってから実験室で合成して性能を確かめている。

 高氏は、候補の絞り込み作業を量子コンピューターに置き換えるための研究を進める。量子コンピューターでは高精度で高速に合成を再現可能な、「量子化学シミュレーション」が実現すると考えられている。高氏は「量子コンピューターが素材の開発に使われ始めるのは2030年ごろからだろう。現在20~30年を要している開発期間は2~3年に短縮されるはずだ」と強調する。

 三菱ケミカルが使っているのは、米IBMが開発したゲート方式の量子コンピューターである。これに対して、清水建設や日本惣菜(そうざい)協会(東京・千代田)は、カナダのDウエーブ・システムズが開発した量子アニーリング方式の量子コンピューターを用いて量子技術の活用法を模索する。具体的には福岡市のベンチャー企業、グルーヴノーツが提供する、DウエーブのマシンとAI(人工知能)を組み合わせたクラウドサービスを使用している。

 膨大な組み合わせの中から最適解を導き出す能力に特化しているのが量子アニーリング方式だ。日本惣菜協会がこの方式の量子コンピューターで取り組んだのは、総菜工場で働く作業員のシフトの最適化である。

(写真=日本惣菜協会提供)
(写真=日本惣菜協会提供)
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