この記事は日経ビジネス電子版に『図解で分かる量子技術 量子コンピューターはどのように計算する?』(6月24日)として配信した記事を再編集して雑誌『日経ビジネス』6月27日号に掲載するものです。

量子コンピューターとは何か。量子コンピューター誕生の歴史から計算の仕組み、方式の違いなど、基礎の基礎から解説していく。もしIBMの研究所に行ったらどんな質問をしてみようか、そんな気持ちで読み進めてほしい。

 米ニューヨーク市マンハッタンのグランドセントラル駅から電車と車を乗り継いで約1時間。木々が生い茂る見晴らしの良い高台に、米IBMの研究開発の総本山「トーマス・J・ワトソン・リサーチ・センター」はある。中に入ると見えてくるのが、通称「シャンデリア」。同社が開発する量子コンピューターの中枢部のモックアップだ。下の写真は5月下旬、量子コンピューターのメディア向け見学ツアーで撮影した。

 「小学4年生に説明するように教えて!」「ケルビン(温度の単位)って何?」──。ツアーではアジア太平洋地域から渡米した記者たちが熱心に質問を浴びせた。まだ一般的ではない量子コンピューターへの疑問は万国共通だ。

 この豪華絢爛(けんらん)なシャンデリアのほとんどは、実は量子コンピューターの心臓部ではない。難題を解く心臓部はシャンデリア下部の「量子ビット」を搭載したチップだ。

米IBMはニューヨーク州の研究拠点でメディアツアーを開催した。
米IBMはニューヨーク州の研究拠点でメディアツアーを開催した。
左は量子コンピューターの内部構造、通称「シャンデリア」のモックアップ。稼働する量子コンピューター(上)を前に、担当者(右)は熱弁を振るった
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 量子ビットが安定して動くには絶対零度(マイナス273.15度)近くの環境が必要だ。そのためチップの周囲をマトリョーシカのように複数のドラム缶型のカバーで覆い、外から中に入るほど低温になるよう冷却している。チップに信号を送るマイクロ波を照射する仕組みも備えるため、「冷蔵庫+電子レンジ+コンピューター」といったところだ。

 では具体的な技術を見ていこう。量子コンピューターはスーパーコンピューターを含む従来のコンピューターと何が違うのか。従来のコンピューターは、「0」か「1」の値をとる「ビット」を基本単位として計算する(上の図)。これに対して量子コンピューターは、「0」と「1」どちらでもある「量子ビット」を基本単位として計算する。いうなれば、コインが表か裏のどちらかを示している状態と、回転し続けている状態の違いだ。