この記事は日経ビジネス電子版に『量子技術を社会実装へ 日本の逆転の布石は打たれた』(6月21日)『量子コンピューター開発はこれから 諦めないNECと富士通』(6月22日)『量子に会社の将来を懸ける東芝 NTTも標準化争いに名乗り』(6月23日)として配信した記事を再編集して雑誌『日経ビジネス』6月27日号に掲載するものです。

岸田内閣の看板政策「新しい資本主義」で量子が科学技術投資の筆頭に挙げられた。重視するのは量子技術の社会実装。具体的な成果を上げてさらなる投資を呼び込む。先行する米中に乗り遅れまいと、政官民一丸となって巻き返しに動き出した。

量子未来社会ビジョンで掲げられた社会実装のイメージ
量子未来社会ビジョンで掲げられた社会実装のイメージ
6月7日に開かれた「経済財政諮問会議・新しい資本主義実現会議合同会議」に出席した岸田文雄首相。国家戦略として量子技術開発が明記された(写真=左:共同通信 写真=右:ZUMA Press/アフロ)
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 岸田文雄首相が掲げる「新しい資本主義」のグランドデザイン(全体構想)と実行計画が6月7日に閣議決定された。重点投資4本柱の一つである「科学技術・イノベーションへの重点的投資」のなかで、聞き慣れた「AI(人工知能)」を抑え、筆頭に挙げられたのが「量子技術」だ。

 量子とは物の構成単位となる小さな粒のことで、原子や電子、陽子、光子などを指す。これらが持つ特性を生かした、今までにないコンピューターや通信などの開発が米国や中国を中心に進んでいる。諸外国に負けないよう、日本も技術開発に取り組む姿勢を明確にした。

 では量子技術はどこがすごいのか。詳しい技術説明はPART2に譲るが、理論上、複雑な計算を従来のコンピューターよりもはるかに短時間で行えるとされている。これは単に、計算を瞬時に終える時短効果だけにとどまらない。スーパーコンピューターでは数カ月から数年かかるとして諦めていた複雑な条件のシミュレーションも可能になり、より多くの課題解決の道が開けるということだ。

 政府はグランドデザインに先立ち、4月22日に「量子未来社会ビジョン」を策定した。2020年1月に策定した「量子技術イノベーション戦略」が技術開発を主眼に置いた内容であったのに対し、新たなビジョンは社会実装を意識しているのが最大の特徴。では、量子技術によって我々の社会・経済はどう変わるのだろうか。

 量子未来社会ビジョンには、量子技術の具体的な活用イメージが列挙されている。その適用範囲は、創薬・医療、材料科学といった産業分野から、金融、交通、生活サービスといった日常生活まで幅広い。

 例えば工場は、需要予測を基に製造プロセスや人員配置、物流などを最適化。これまではスタッフが経験を基に数時間かけて調整していたものを、数分で処理できるとうたう。金融では、従来は取引時間外の夜から朝にかけて行っていた取引戦略のシミュレーションを、リアルタイムで処理できるようになるという。

 これらは、政府が政策実現のために描いた絵空事ではない。実際にビジネスも動き出している。