この記事は日経ビジネス電子版に『トヨタ車検不正、第一生命19億円詐欺… 再発防止期す企業に学ぶ』(6月16日)、『AIが暴く不正会計、監査にDXの波 東芝問題で注目の電子鑑識とは?』(6月17日)として配信した記事を再編集して雑誌『日経ビジネス』6月20日号に掲載するものです。

不正撲滅へ組織として打てる先手は、不正に走る動機や機会を与えないことだ。かつて不祥事に揺れた企業も組織運営の仕組みを変え、再発防止を誓っている。不正との戦いに臨むにあたり、まずはここで示す5つの掟(おきて)を意識しよう。

 「皆さんからもらう書類に『エンジン不調』とだけ書いてあっても困ります。頻度は、音が出るか、どのような音か、など具体的に記してもらえるとスムーズに仕事ができます」

 4月、トヨタ自動車系列の販売店、ネッツトヨタ愛知(名古屋市)のある店舗で営業、整備、店舗スタッフら職種の違う5~6人が集まり、こんな議論が交わされた。この日は業務をどううまく回すかというオペレーションが主題だ。同社では4月から月2回、全店でこうした小規模のグループ会議を開いている。

 グループでリーダーを決め、普段は職場で会うことがほとんどない人々が同じテーブルを囲み、意見を出し合う。狙うのは、立場を越えた社員同士の対話の促進だ。出た意見はその後のリーダー会議で共有され、店舗経営にも生かされる。

 ネッツトヨタ愛知が現場の声を重視するのにはわけがある。2021年3月、同社のプラザ豊橋(愛知県豊橋市)の従業員が、国で定めた通りの車検を実施していなかったとして中部運輸局から行政処分を受けた。最終的に10人が道路運送車両法違反などの容疑で書類送検された(その後10人は不起訴処分)。

(写真=毎日新聞社/アフロ)
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 同社が10人から事情を聞いたところ、その多くが「決められた時間までに作業をしなければならなかった」と話した。店によって対応は異なるが、プラザ豊橋では「検査員3人で1台1時間」を基本にしていた。車ごとに仕様も年式も異なるため、一律の時間で検査できるものではないが、検査員は営業サイドからのプレッシャーも感じていたようだ。

 そもそも「『1日にできる車検の数はどれぐらいなのか』という議論すらも抜けていた」とネッツトヨタ愛知の宮田俊司・総合企画部長は話す。プラザ豊橋は現在、「検査員2人で2時間」を基本としているが、それは柔軟に設定できるようになった。

 社内調査の結果から、同社は不正検査事件の根本原因は「現場の声や実態を把握できていなかった組織風土にある」と判断し、職場環境を変える仕組みづくりに着手。その一環として小グループに分かれての意見交換の場を設けている。

 現場の意見をどう本社に届けるかも工夫した。本社の経営陣に直接モノが言える権限を持つ専門の相談員を設置。現場の要望が迅速かつ円滑に上層部に伝わるようにした。

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 その後、ネッツトヨタ愛知以外でも検査不正が発覚したトヨタは、現場を十分に把握できなかった反省から方針を転換。数字をベースにした全国一律の目標管理から、各店の柔軟な運営を後押しする方向に切り替えた。「各店の意見をより尊重し、言えない風土そのものを変えたい」(広報担当者)としている。