この記事は日経ビジネス電子版に『イカサマを絶つ はびこる不正、若手官僚も墜ちた悪の道』(6月13日)、『川崎重工、SMBC日興… やまぬ不正、「組織ぐるみ」で企業に打撃』(6月14日)として配信した記事を再編集して雑誌『日経ビジネス』6月20日号に掲載するものです。

大手企業や官公庁で、驚くほど大胆な不正行為が相次いで摘発されている。次々とあぶり出された新型コロナウイルス対策給付金の不正受給が象徴する。綱紀粛正の掛け声とは裏腹に、個人や組織の暴走を止められないでいる。

新型コロナ対策の給付金詐欺事件が次々明らかに。個人の暴走が組織をも揺さぶっている(写真=PIXTA)
新型コロナ対策の給付金詐欺事件が次々明らかに。個人の暴走が組織をも揺さぶっている(写真=PIXTA)

 「今クライアントが100社くらい順番待ちしていますが、前金ですぐ手数料を支払えば、あなたを1番にします」。2021年2月、飲食店を営む外国籍の男性Aは、税理士事務所に勤める知人男性Bに東京都への「時短協力金」の申請に関し相談した。するとBからこう耳打ちされた。

 新型コロナウイルス禍で客足が減り、資金繰りに窮していた。翌日、約23万円を振り込んだ。実はAの店は新型コロナ前と営業スタイルをほぼ変えていなかった。「20時以降はお酒を出さず、時短営業している」との給付条件を満たしてはいなかった。

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 数日後、入金を確認したBはまず、Aに店の扉に貼る『感染防止徹底宣言』のステッカーの取得を指示。Aが早速それを入手すると、「次はステッカーを扉に貼った写真を送って」と告げた。写真を受け取ったBは都のサイトでAに代わって協力金を申請。添付する誓約書にもBがAになりすまして署名し、84万円の協力金をだまし取ったとされる。

 詐欺罪に問われたA被告の裁判で証言したBは「闇カジノにはまり数千万円の借金があった。『悪』の道に走ることに歯止めがかからなかった」と打ち明けた。これは新型コロナ禍で発覚した数々の不正の氷山の一角にすぎない。中でも人々の耳目を集めたのは、霞が関の官僚が悪事に手を染めた次の事件だっただろう。

拝金主義に成り下がり

 「主文、本件控訴を棄却する」──。5月下旬、東京高等裁判所で判決を言い渡した裁判長の視線の先には、経済産業省の元キャリア職員、桜井真被告の姿があった。判決は一審・東京地裁が下した懲役2年6カ月の実刑判決を支持した。桜井被告は身じろぎせず、静かに裁判長が説明する判決内容を聞いていたが、事件の概要が詳しく説明されると、うなだれるようなしぐさも見せた。

 桜井被告は、同じ経産省の元キャリアで友人のCと共謀。桜井被告らが設立したペーパーカンパニー2社を介し経産省が所管する国の新型コロナ対策の「持続化給付金」「家賃支援給付金」計約1550万円をだまし取った。Cは桜井被告と共に逮捕され、一審で懲役2年、執行猶予4年の判決を受け、その後刑が確定している。一審は一連の不正行為について、桜井被告が事件を主導したと認定。同被告には実刑判決を下した。桜井被告は「実刑は重い」と控訴していた。

(写真=アフロ)
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