時代の転換点に多感な時期を送った氷河期世代には大きな財産がある。規律と多様性の両方を重んじる、新旧ハイブリッドの価値観だ。デジタル化にいち早く対応し、多くの起業家も生まれている。

山九の技術開発グループで働く芝頼彦さん(右)は、氷河期世代を対象に実施された正社員の採用枠で入社した(写真=都築 雅人)
山九の技術開発グループで働く芝頼彦さん(右)は、氷河期世代を対象に実施された正社員の採用枠で入社した(写真=都築 雅人)

 もう会社勤めすることはないだろう──。一度は退路を断って研究者を目指したという40歳が、しなやかに働いていた。

 物流大手、山九の技術開発グループで働く芝頼彦さんは、2020年の入社。同社が政府の氷河期世代支援プログラムに沿って設けた正社員募集の枠で採用された。東北大学で水産を専攻していた芝さんはもともと研究者を志望し、同大学大学院に進んで博士号を取得した。ポスドク研究員に就いたが「研究実績を上げ続けないと、残ることができない厳しい環境」に限界を感じ、実家のある奈良に帰って地元の中小化学メーカーに就職した。

 ただ、実際に工場の現場に立ち、夜勤もこなす仕事が年々つらくなっていた。そこで巡り合ったのが今回の山九の応募枠だ。現在の仕事内容は、物流の現場におけるトラブルシューティングで、原因を検証して対策を講じる。芝さんの企業での職歴は前職の4年ばかりで、現在の職務内容も初めての経験だが、青山勝巳人事部長は「きちんと論理立てて働いてくれている」と評価する。前を向いて、動き続ける氷河期世代。今、組織変革の先頭に立って力を発揮し始めようとしている。

 氷河期世代の底力❶ 
組織のDXとダイバーシティーの旗手に

 氷河期世代は言わば、2つの日本を生きてきた。ボリュームゾーンとして、東京ディズニーランドの開業や任天堂のテレビゲーム機「ファミリーコンピュータ」に代表される1980年代の消費社会の恩恵を一身に浴びて育つ一方で、大学卒業時に雇用の調整弁としてバブル崩壊後の景気低迷のあおりを受けた。

企業の文化を変える世代

 この世代の潜在力に注目するのは、千葉商科大学の常見陽平准教授だ。働き方評論家でもある常見氏は「秩序を重んじ、上から言われたことをきちんと実行する従来世代の気質を持ちながら、個性や多様性も尊重する貴重な世代」との見解を示す。その上で、「この世代が大手企業の役員クラスに就けば、組織文化が変わるきっかけになる」と続ける。

 この春、金融業界では氷河期世代の社長誕生がひとしきり話題になった。4月1日に損害保険ジャパンの新社長に就任した70年生まれの白川儀一氏は51歳で、大手金融機関トップでは最年少。37人の役員を抜いた異色のエースをめぐる周囲の評価は「人の話をよく聞く」「情報感度が高く、フットワークも軽い」。

 また、白川氏の社長就任をめぐっては社内から、「DX(デジタルトランスフォーメーション)に弾みが付く」(経営幹部)といった期待も寄せられている。損保ジャパンでは、国内外の保険事業を通じて得たデータを活用して、新たな価値創造につなげる新しいデジタル事業を展開しようとしている。白川氏はその「船頭役」となりそうだ。