この記事は日経ビジネス電子版で配信した『脱「ブラック霞が関」へ 見え始めた働き方改革の成果と課題』(6月1日)などの複数記事を再編集して雑誌『日経ビジネス』6月6日号に掲載するものです。
かつて24時間戦士の象徴だった官僚は、共働き時代への適応が急務。国会対応を巡る政治家の意識に難点もあるが、省庁の改革は進み出した。柔軟な働き方と「働きがい」を求める、若手~中堅の動向を追った。
改革①
ブラック職場と言わせない
キャリアパスと労働時間、「脱束縛」
4月28日、二之湯智・内閣府特命担当大臣と川本裕子人事院総裁に、係長~課長補佐級の官僚が提言書を手渡した。「霞が関の仕事が魅力的で、国家のために働くという公務員をどんどん創っていく」。有志8人からなるこのチームは「人人若手」といい、ブラックと呼ばれてきた職場環境を変えようと活動してきた。

各メンバーは昨秋から離職者や有識者などにヒアリングを重ね、問題点を抽出した。仕事のやりがいが失われつつあるのを最大の危機と捉え、年次主義によるジョブローテーションではなく、自発的にキャリアを構築できるよう訴えた。
人事評価の見直し、人手不足でOJT(現場研修)の余裕がなくなっている状況に対応したリスキリングの拡充、業務改革など、その内容は多岐にわたる。
提言作成に協力したパーソルキャリアの大浦征也執行役員は「従来の官庁のヒアリングと異なって質問の嵐が止まらず、熱量はすごかった」と振り返る。
退職者の状況も探っていく中で同チームは、労働力の流動性があるのは社会に貢献できて良いことと捉えた。ただ、公務に魅力があっても出て行かざるを得ない官僚がいる状況は改善しないとならない。
議員にもオンラインで説明
実際、ここ3~4年で職務のあり方は変わってきた。内閣人事局が2021年度に実施した約5万人の国家公務員アンケートでは、働き方改革について「進んだ実感あり」との回答が64.5%に拡大した(18年度は同43%)。新型コロナウイルス禍により、特にテレワーク対応が広まった。
かつて過酷な労働環境から「強制労働省」とも呼ばれた厚生労働省。中堅のキャリア官僚に聞くと「クラウド活用が可能になって飛躍的に働きやすくなった」という。
数年前までは機密情報をパソコン内に保存すると持ち出せず、机に鎖で固定して鍵をかけるという念の入れようだった。共用のクラウド領域が徐々に拡大し、VPN(仮想私設網)接続が普及して家からも仕事しやすくなった。
また、「オンラインでの政策説明に応じてもらえる国会議員が増え、明らかに効率は上がった」と各省庁の官僚は口々に言う。長いと2~3時間かかることもあった廊下での待機時間が不要になった。
企業で広がる「場所にとらわれない働き方」も採り入れつつある。例えば総務省の行政管理局では、席を毎月移動させるグループアドレス制を導入。職場内でのコミュニケーションが増えたという。

一方、業務の効率化をさらに加速しないと霞が関はもたない。国家公務員の総数は00年に比べてほぼ半減し、約59万人となった。単純に考えて、全体の仕事量が同じなら1人当たり2倍の仕事をこなさないといけない。
多くの官僚が苦悩するのは、国民にとっての付加価値と関係のない作業で時間を食い、その弊害が降りかかること。
例えば厚労省では「省内業務のデジタル化の予算がなかなかつかず、労務管理はアナログ」という。出勤簿はエクセルへの手入力で、年休の残り日数も個人で把握。年度末が近づいて数日分を消化する必要があっても、忙しいと実際には休みづらい。休暇を取ったことにしてフルでサービス残業という事態を助長しかねない。
政治の課題もまだ大きい。国会での質問は原則、「前々日の正午までに通告」となっているが、「破る議員も少なくない」(中央省庁のキャリア)。ワーク・ライフバランス(東京・港)の調査では、このルールを守れていないのは立憲民主党が最多だった。

「職員たちは徹夜で先生の対応をしなきゃならないんです」。3月4日の衆議院経済産業委員会では、萩生田光一経産相が野党議員にこう苦言を呈する場面もあった。
国会の質疑応答は民主主義の要だが、支える官僚がいなくなれば成立しない。永田町の意識改革も急務だ。
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