この記事は日経ビジネス電子版に『社長の頭の中を見せる 日清食品の「マーケティング会議」に潜入』(5月25日)、『日清食品、公募で経営人材育成 「ミニ社長」に託すベンチャー魂』(5月26日)として配信した記事を再編集して雑誌『日経ビジネス』5月30日号に掲載するものです。
創業家と会社の関係はどうあるべきか。ファミリー企業の永遠の課題だ。日清食品で3代にわたる経営者が力を発揮し続けられる理由は何か。創業者の魂を組織に植え付ける「仕組み」を解剖する。
日清の強い仕組み 1
社長の頭の中を知る 週1回の「マーケ会議」

熱気と笑いであふれた会議室を時折、数秒の静寂が包み込む。射抜くように商品を見つめる安藤徳隆氏の目は真剣だ。その表情を20人ほどの社員が見つめる。パソコンのモニターを通じて見学している社員を含めれば、80人近くがこの会議に参加していた。
これは事業会社の日清食品が毎週開催している定例の「マーケティング会議」。新発売する商品の味やパッケージ、販促用ポップなどを担当者が次々と持ち込み、その合否や改善案を社長の徳隆氏が五感と思考で判断していく場だ。
日清食品は2015年、マーケティング会議を全社員参加可能にした。以来、新型コロナウイルス禍でリモート中心に切り替えることはあったものの、基本的にはほとんど形式を変えずに継続している。
「宣伝会議」も同じ形式だ。テレビやインターネットを駆使した宣伝をどんなコンセプトで、どのような作品にしていくか、どうやって拡散させて認知度を高めるか。そのアイデアを検討する会議をこちらも週に1回、本社の会議室で開催し、全社員を参加可能にしている。
記者が許可を得てマーケティング会議に潜り込んだ日、目の前には3つの新しい「カップヌードル」のパッケージが並んでいた。ほぼデザインが決定しており、最終段階の調整として数mm単位でロゴの大きさを変えているというが、ぱっと見ただけでは分からないほど微妙な違いだ。
置かれたパッケージを並べて見比べたり、手に取って様々な角度から見たりした徳隆氏は、一瞬の間を置いて「前回(の商品)から7%サイズアップしたこのロゴにしよう」と判断。「ロゴはデカい方がいいけど、バランスを崩しちゃいけない」と理由を説明するのも忘れない。
担当者に指示を出すや否や、徳隆氏は次の商品に足を向けた。会議の時間中、座る暇は一切なし。各商品の担当者が寝る間も惜しんで練り直した商品のアイデアについて次々に判断を下していく。
会議に参加する社員たちが別のアイデアを出し、「それはいいね」と徳隆氏が採用するシーンもあった。参加者が競うようにアイデアを披露する様子はさながら「大喜利」だ。ここで指示を受けた担当者は翌週のマーケティング会議までにアイデアをブラッシュアップし、再び徳隆氏の判断を仰ぐことになるという。
この会議の目的はマーケティング施策を良いものにすることだけではない。決定権者である徳隆氏の「頭の中」を社員全員がのぞき込み、その思考プロセスや判断基準を学ぶ場にもなっているのだ。
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