この記事は日経ビジネス電子版に『NTTドコモ、メッセージ配信で「そっと後押し」』(5月18日)として配信した記事を再編集して雑誌『日経ビジネス』5月23日号に掲載するものです。

NTTドコモがスマートフォンに効果的なメッセージを配信する実験を重ねている。人々に“よりよい”自発的な選択を促す「ナッジ理論」を活用。最新技術で一人ひとりの思考レベルまで分析し、深層心理に訴えかける取り組みが広がり始めた。

 「次のバスを見送ってポイントGET!」「最短1分の待ち時間でポイント獲得チャンス!」。2021年9~12月、東急バスの利用者約3000人のスマートフォンに、こんなメッセージが送られた。

東急バスは混雑の平準化を狙い、混雑したバスを1本見送るよう促すメッセージを配信した(写真はイメージ 写真=古立 康三)
東急バスは混雑の平準化を狙い、混雑したバスを1本見送るよう促すメッセージを配信した(写真はイメージ 写真=古立 康三)

 あるバスが渋滞などをきっかけに遅れ始めるとバス停で待つ人が増え、乗り降りに時間がかかってさらに遅れが増していく──。路線バスでよく見かける光景だ。その結果、後続のバスがすぐ後をガラガラで走ることも少なくない。冒頭のメッセージは、空いているバスへと利用者を誘導するために配信されたものだ。

 東急バス企画部IT戦略グループの大杉正樹氏は「新型コロナウイルス禍で密状態に対する意識が高まり、混雑の平準化が重要になった」と話す。混雑情報をただ配信するだけでなく、利用者が混雑を回避する行動を起こすにはどうすべきか。NTTドコモと組み、「ナッジ理論」を使ったメッセージ配信に取り組んだのだ。

 ナッジは英語で「そっと後押しする」という意味。人々が自身にとってよりよい行動を自発的に選択できるよう促す取り組みを指す行動経済学の理論だ。この理論を提唱した米シカゴ大学のリチャード・セイラー教授が17年にノーベル経済学賞を受賞するなど、近年注目度が高まり、企業の活用も広がっている。

 実証実験では、先に到着するバスが混雑していて、その次のバスが空いている場合、スマホにプッシュ通知を送信。通知に従ってバスを見送るとポイントを付与した。その結果「混雑したバスを見送る人が有意な数で確認できた」(大杉氏)。

 ドコモは20年から、東急バスだけでなく京浜急行電鉄、九州大学、中日本高速道路、JR東日本などともナッジを使った行動変容の実証実験を続けている。NTTドコモクロステック開発部の山田曉担当部長は「スマホを活用することで、これまでよりも効率的に行動変容を起こせるはず」と胸を張る。

 スマホは位置情報など様々なデータを取得でき、個人に直接メッセージを送ることが可能。画一的な情報ではなく、利用者の状況や思考に合った内容にすれば、より効果的に働きかけられる可能性が高まる。

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