この記事は日経ビジネス電子版に『4万円超でも7万台売れたコーヒーメーカー、ツインバードの新戦略』(5月12日)などとして配信した記事を再編集して雑誌『日経ビジネス』5月16日号に掲載するものです

「コストが上がったから値上げする」。この単純な理由で消費者は納得しない。欠かせないのは、追加の金銭的負担を強いる明快な理由づけだ。新ブランド、新ジャンル、新機能。顧客に価値を認めてもらう方法はある。

ツインバード工業は新ブランドで付加価値を模索。野水社長は「差別化を図れれば、市場での価格設定で有利になる」と話す(写真=岩船 雄一)
ツインバード工業は新ブランドで付加価値を模索。野水社長は「差別化を図れれば、市場での価格設定で有利になる」と話す(写真=岩船 雄一)

 「価格競争に勝ち抜くだけでは、お客様の心はつかめない。商品を長く使っていただくためにも、ブランド価値を高める必要があると考えた」。生活家電を手掛けるツインバード工業(新潟県燕市)の野水重明社長はこう力を込めた。目の前にあるのは、全自動コーヒーメーカーとスチームオーブンレンジ。それぞれ「匠プレミアム」と「感動シンプル」という2021年11月に誕生したばかりのブランドを冠した商品だ。

 事業環境は厳しさを増している。足元では原油やプラスチック、金属といった原材料価格の高騰が進む。それでも22年2月期の売上高は約129億円で、売上高総利益率は前年に比べて1.6ポイント上昇し35.2%となった。家電事業に限れば、23年2月期の売上高総利益率は前期に比べて5ポイント近くの上昇を見込む。背景にあるのが同社が推し進めている新ブランド戦略である。

 これらは最近の原材料価格高騰以前から周到に準備をしてきたものだ。

 結婚式の引き出物や出産祝いなど「カタログギフト」を主戦場としてきた同社は、オーブントースターやハンディースチーマーなど価格が1万円以内に収まる商品を中心に取り扱ってきた。だが、少子高齢化などを背景にギフト市場は縮小している。量販型の家電に軸足を移そうとしたが「ブランド力の壁」に突き当たった。お値打ちギフト市場で選ばれる存在でも、量販店やネット通販など競合がひしめく中では通用しない現実に直面したのだ。

 それまでは「ギフトカタログで設定された価格に合わせる」制約があったが、その枠から飛び出し、ツインバード独自の付加価値を追求する方向へとかじを切った。

 「ものづくりの街として栄えてきた燕三条の技術力を形に」(野水社長)と社内に号令をかけて開発したのが18年10月発売の全自動コーヒーメーカーだった。「コーヒー界のレジェンド」と称されるカフェ・バッハ(東京・台東)代表の田口護氏監修の商品で、ミルの摩擦熱を抑え、風味を保ちやすいのが特徴。価格は4万円を超え(税込み、同社通販サイト、以下同)、従来製品の2倍近いが累計約7万台を売り上げ、現在でも月販売台数は4000台を超える。

 この成功体験を基に立ち上げたのが冒頭の2つのブランドだ。匠プレミアムは「その道の匠にしか到達できない技の境地を最新技術によって再現する」というコンセプトで先のコーヒーメーカーも組み込んだ。

 一方、感動シンプルは「必要な機能だけが感動と快適を長く提供できる」と位置づけ、今年1月にスチームオーブンレンジを発売した。上下からの蒸気でしっとり蒸し上げる「Wスチーム」というツインバード独自の機能が売りだ。価格は4万9800円で2万円台もある競合製品と比べると価格はかなり高い。「それでもお客様が共感して買っていただけるブランドとして育てる」と野水社長は語る。これらの高額商品が収益向上に貢献しそうだ。

 「安ければ売れる時代は終わり」と野水社長。新ブランドによる付加価値追求で安さに頼らない生き残りを目指す。