賃金上がらず「負のループ」

物価は上がる一方で賃金の伸びは弱く、実質賃金マイナスも懸念される(写真=PIXTA)
物価は上がる一方で賃金の伸びは弱く、実質賃金マイナスも懸念される(写真=PIXTA)

 日本で起きているのは原材料費上昇が原因の「コストプッシュ型」のインフレだ。賃金が上がらない中で家計の負担が増せば個人消費が冷え込み、企業収益が目減りする。そして企業が投資を減らして賃金も上がりにくくなる、という負のループに陥る恐れがある。反対に需要拡大によって物が不足し、物価が上昇するのが「デマンドプル型」のインフレで、その例が今の米国だ。消費者物価指数は8%と高い水準にあるが、経済成長によって賃金も上昇している。

 悪い物価上昇の連鎖を断ち切るには、どうしたらいいのか。GSの馬場エコノミストは、「米国と日本では絶対的な賃金水準が異なる。日本企業は自国の賃金水準が低いのをよく知っているから、コスト上昇分を販売価格に転嫁できず、我慢している。賃金引き上げが重要だが、それには『5年、10年で日本経済がこう成長する』というビジョンを国が打ち出し、企業経営者が共有できるようにしなければならない」と指摘する。

 負の連鎖による個人消費の冷え込みが現実となりつつあるのが、住宅購入だ。不動産調査のアットホームラボ(東京・千代田)の調査によると、22年3月の首都圏1都3県の新築戸建て住宅価格は、コロナ禍の住宅需要も背景に調査対象の8エリアすべてで17年以降の最高額を更新。東京23区は6399万円でこの1カ月で約100万円、前年同月比でも700万円近く上昇した。建物や土地面積はほぼ横ばいにもかかわらずだ。

 「建築に携わって40年。こんなに材料の値段が上がることはなかった。しかも、値上げはまだ続いている」。首都圏で一戸建て住宅の建築を手掛けるジェイホームズ(横浜市)の牧野伸一代表取締役はそう漏らす。要因の一つは21年から続くウッドショックによる輸入木材の高騰だ。

木材価格、半年で2.2倍に

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 輸入木材は一般的に国産より安く、強度も高いため多くの木造住宅で使われるが、米国での住宅需要の高まりなどで価格の高止まりが続く。林野庁によると、22年3月の製材輸入平均単価は1m3当たり7万5824円で前年同月より89%も高い。ジェイホームズでも木材の仕入れ価格は21年6月から12月にかけて約2.2倍に上昇。ロシアのウクライナ侵攻で世界の木材不足はさらに拍車がかかる。

 木材だけではない。「2月にコンクリートが15%上がった。キッチン、アルミサッシ、壁のクロスも値上げされるだろう」と牧野氏。戸建ての建築費は1年前と比べて1割以上、値上がりしているという。

 アットホームラボの磐前淳子データマーケティング部長は「建築資材の価格上昇の影響を受けて、売り出し価格を上げた事例もある」と指摘。不動産会社では、実際の価格が予想より高く、購入を断念した顧客もいるという。悪い物価上昇の出口が見えない中で、業界内の懸念は日に日に高まってきている。

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