この記事は日経ビジネス電子版に『消費税3%上げ相当の打撃 日本経済むしばむ「悪い物価上昇」』(5月10日)として配信した記事を再編集して雑誌『日経ビジネス』5月16日号に掲載するものです

原材料価格の上昇があらゆる製品のメーカーの採算を悪化させている。メーカーは雪崩を打つように値上げに踏み切り、家計に負担がのしかかる。それでも賃金は上がらない「悪い物価上昇」が日本経済をむしばむ。

大王製紙は「エリエール」ブランドのトイレットペーパーなど家庭用紙製品を今春から15%以上値上げした
大王製紙は「エリエール」ブランドのトイレットペーパーなど家庭用紙製品を今春から15%以上値上げした

 「原燃料高の分厚い包囲網に囲まれている」「コスト増は自助努力分をはるかに上回る」。沈痛な声で語るのは、大王製紙のホーム&パーソナルケア国内事業部の担当者である。同社は3月22日出荷分からエリエールブランドのトイレットペーパー、ティッシュペーパーなど家庭紙全品の価格を15%以上引き上げた。

 原料のパルプ材や石炭やガスなどの燃料価格が上昇。円安による輸入コストの上昇が追い打ちとなり採算を悪化させた。価格改定を公表したのは今年1月で、ロシアがウクライナに侵攻する1カ月以上も前だった。そのため、「この数カ月で事業環境がかなり変わり、値上げ幅は十分でなくなってしまった」と打ち明ける。

贈答用かに缶107%値上げ

[画像のクリックで拡大表示]

 贈答用かに缶の値上げ幅は約107%──。水産大手のマルハニチロは3月納品分から、缶詰・瓶詰の商品数の3割に及ぶ大規模な値上げに踏み切った。温暖化による漁獲高減少に、エネルギー価格高騰による物流や生産費用の上昇が重なった。以前、サバ缶ブームのときなど、一部魚種の価格改定に踏み切ることはあったが、今回は様相が異なる。サバやイワシ、サンマやマグロなど41品を、約3~15%一斉に引き上げた。

 スーパーの特売セールに欠かせない定番品も店頭価格がじわじわと上がっている。今回、全国のスーパー約470店の販売データを集める日経POS(販売時点情報管理)情報を基に、定番9品目について平均店頭価格が1年間でどう推移したか調査した。2022年3月までの1年間で、食用油は約14%上がった。同じ期間で冷凍ギョーザが約7%、衣料用洗剤と食パンが各約6%、小麦粉やしょうゆが各約4%、卵やトイレットペーパーが各約3%だった。約1%の紙おむつを含め、9品目すべてが1年前より値上がりしていた。

 原油価格の高騰でガソリン価格、電気代やガス代が上昇し、家計への負担は増すばかりだ。みずほリサーチ&テクノロジーズは、政府の燃料油価格の激変緩和措置によって、(1)ガソリン価格高騰を抑える補助金が年内続く場合(2)補助金がない場合──の2つのシナリオに分けて、食料やエネルギー価格上昇による22年の家計への負担を試算した。(1)では全体平均で年間6万305円、(2)は7万2951円の負担増になる。

 所得が低いほど負担率は増す。年収300万円未満の世帯では(2)の場合、年収に対する負担率が2.5ポイント増える。調査部経済調査チームの南陸斗氏は「消費税3%引き上げに相当するマイナスインパクトが家計を直撃する」と指摘する。

次ページ 5つの「供給網リスク」