この記事は日経ビジネス電子版に『伊藤忠の下克上 負け癖払拭した岡藤流「逆張り×統率」』(4月18日)として配信した記事を雑誌『日経ビジネス』4月25日号に掲載するものです。

かつて「破綻するのでは」とされた伊藤忠商事は、今や三菱商事、三井物産と首位を争う。上位プレーヤーが固定されがちな日本の産業界では珍しい逆転劇だ。3代にわたる経営リレーを仕上げた岡藤正広会長CEOは、さらに先を見ている。

(写真=右:陶山 勉)
(写真=右:陶山 勉)
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 「2022年度、23年度は当社の力量が真に問われる大変難しい年となる。これからもチャレンジャーとしての精神を決して失ってはならない」

 4月7日。伊藤忠商事の岡藤正広会長CEO(最高経営責任者)は、全社員にこんなメッセージを送った。ウクライナ危機や金融緩和時代の終わりといった世界情勢の激変にどう対応し、資源価格高騰で業績を伸ばす三菱商事、三井物産とどう戦っていくべきか。その前に開かれた経営会議での議論を踏まえたメッセージだ。

 伊藤忠は21年3月期、最終利益、株価、時価総額で他社を上回り、「商社3冠」を達成した。足元の時価総額は20年前の10倍となる6兆円超。22年3月期は、最終利益8000億円超を計画し、三菱商事、三井物産とトップ争いを繰り広げている。

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 国内の主な業界で21年3月末と11年3月末の時価総額を比べると、自動車や銀行、電機の1位は10年後も不変だ。首位交代があったのは、ソフトバンクグループが投資ファンドに衣替えした通信業界ぐらい。プレーヤーが固定され新陳代謝が進まないのが、日本の産業界の構造的な問題だ。

 現在は4000円前後の株価は1990年代後半に200円を割り込み、「破綻するのでは」と話題になった伊藤忠。産業史に残る土俵際からの下克上は、どのように成し遂げられたのか。競争戦略が専門の一橋ビジネススクールの楠木建教授は、「伊藤忠は一発投資に依存せず、手間暇かけてバリューチェーン(商流)を磨く戦略が秀逸だった」と評価する。

 ただその戦略は、過去の失敗から余儀なくされたものでもあった。

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