この記事は日経ビジネス電子版に『1000人調査 社員は「転勤命令」をどう受け止める 懸念は家族』(4月4日)、『70社の人事に聞く「わが社が転勤制度を見直す理由」』(4月5日)などとして配信した記事を再編集して雑誌『日経ビジネス』4月11日号に掲載するものです。

働き方が変わった今、住む場所、働く場所も多様化している。ましてや江戸時代の参勤交代のように会社本位の求心力だけを働かせた転勤はそれこそ「交代」を余儀なくされる。各社の試行錯誤は続く。

(写真=アフロ)
(写真=アフロ)

 日本企業は終身雇用と勤続年数が長くなるにつれて賃金が上がる年功制度を会社側が保証、その代わりに働き手がキャリアを会社側に委ねる雇用モデルを長らく採用してきた。

 社員を様々なポストに割り当てて総合的に育成する「メンバーシップ型」と呼ばれる働き方だ。この配置転換の慣行を通して皆が成果を等しく分け合い、昇進・昇給を手にしてきた。

 他方、欧米では働き手の職務内容をあらかじめ明確に規定して雇用する「ジョブ型」モデルが多い。職務内容を書面で明確に定めるとともに、専門性を高めるとあって、勤務地は職務にひも付く。

 近年、日本でもこのジョブ型に移行する企業が増えてきた。社員一人ひとりが自律的に職務を定義することで転勤の必要性があるかないかはおのずと決まってくる仕組みだ。

 三菱ケミカルは2020年10月に管理職、21年4月からは入社3年目からの一般社員に対してもジョブ型を導入した。並行して人事異動を原則公募制によるマッチングに切り替えた。公募には「岡山事業所の製造部門の課長職」のように働く場所も明示するようになった。

ジョブ型を意識した人事に

 結果として、会社都合の転勤辞令は消え、その社員にとってキャリア上必要な転勤だけが残るようになった。労制人事部の久保田祥チームリーダー(取材時)は「以前は極端な話、『来月、○○へ転勤だ』の一言で終わっていたが、今は全く違う。最終的な選択肢は本人にある」と話す。

 ただ、マッチングは「言うは易く行うは難し」。何しろ公募対象となる社員が1万7000人にも上る。年に4回実施する公募では毎回400程度のポジションが対象になるが、応募が1人であっても、選考で適性がないとの判断になれば見送られる。

 公募で決まらなかった場合は会社命令でふさわしい社員を充てることになる。久保田氏は「あなたのキャリア設計のためにもこの任地に行ってほしい、としっかりと説得する」とジョブ型を意識した人事を強調する。

 同社は各地にプラントや工場を抱えるメーカーの性格上、管理者は必ず存在する。事故などのリスクを踏まえれば本社勤続が中心の生産管理のエキスパートを送り込む必要もあり、転勤ゼロは現実的ではない。ただ、将来の話として、地方拠点に配属する人材の確保が厳しくなってきた場合、その地方での勤務を希望する人材を外部から採用。ジョブディスクリプション(職務記述書)を作成させるという思い切った改革も久保田氏の頭の中にはある。