この記事は日経ビジネス電子版に『1000人調査 社員は「転勤命令」をどう受け止める 懸念は家族』(4月4日)、『70社の人事に聞く「わが社が転勤制度を見直す理由」』(4月5日)などとして配信した記事を再編集して雑誌『日経ビジネス』4月11日号に掲載するものです。

リモートワークの浸透は、個人の働く意識を大きく変えた。働く場所を決めるのは会社ではなく個人。勤務地に縛られない新たな働き方を求め、企業と個人が動き出した。

富士通・神谷拓郎さんの営業エリアは関西だが単身赴任をやめて帰京。月に2回の出張で対応する(左)。メタウォーターの長谷川行教さんは平均週2日のペースで大阪から東京本社に新幹線で通勤する(右)(写真=左:菊池 くらげ、右:竹井 俊晴)
富士通・神谷拓郎さんの営業エリアは関西だが単身赴任をやめて帰京。月に2回の出張で対応する(左)。メタウォーターの長谷川行教さんは平均週2日のペースで大阪から東京本社に新幹線で通勤する(右)(写真=左:菊池 くらげ、右:竹井 俊晴)

 「子どもの誕生日を当日に祝うことができるなんて。妻とは単身赴任を前提にして結婚したので諦めていたが、本当にガラッと変わりました」──。水処理大手メタウォーターの長谷川行教さん(46歳)は感慨深そうに話す。

 大阪府箕面市に自宅のある長谷川さんは、2021年4月からは東京・千代田区にある本社のエンジニアリング企画部・技術管理グループでマネジャーとして働いている。在宅のリモートワークと組み合わせつつ、週に2日程度、大阪から東京へ出張している。片道4時間強の“新幹線通勤”では移動時間にも仕事を続け、有効に時間を活用できるようになった。

 名古屋出身の長谷川さんがメタウォーターの前身となる地元の日本ガイシに入社したのは01年のこと。入社2年目に転勤先の大阪で結婚し、小学校教員として働く妻を尊重して、住まいを当地に構えた。本社のある名古屋に帰任する未来は見えている。それでも、長谷川さんが単身赴任することを織り込んで大阪での結婚生活を選択した。

 長女と長男の2人の子どもに恵まれるも、11年からと19年からの都合2回、それぞれ2年間の名古屋への単身赴任を経験している。名古屋から大阪の自宅に週末ごとに帰る生活で、帰省手当の支給は月に1.1回分、残りは自腹だった。金銭的な負担もそうだが、家族と一緒にいられないのが何よりつらかった。

 そんな単身赴任を前提としていた長谷川さんの生活を一変させたのは、メタウォーターが進める働き方改革だ。5年前から順次、リモートワーク化のベースとなるデジタル環境を整えながら、場所にとらわれない働き方を推奨している。人事総務企画室長として改革の旗を振る、藤井泉智夫執行役員は「転勤といえば新しい土地に移って暮らすものだったが、ホームタウンを変えない人事異動へと転換していく」と宣言する。

 メタウォーターは東京に拠点を置く富士電機と名古屋に本社を構える日本ガイシ、それぞれの水環境部門が対等合併して08年に誕生し、翌年には大阪の栗本鉄工所の連結子会社から資源リサイクル事業を譲り受けた過去がある。単身赴任が増えるのは必然の成り立ちともいえる。

 ただ、中高年の社員の中には、単身赴任で慣れない一人暮らしをしたことで健康を害する者もいた。年齢の高い社員から段階的に取り組み、17年に300人程度いた単身赴任者は現在、100人未満にまで減った。また、どこからでも働けるという点が売りになり、新卒と中途いずれの採用でも人気を集めるようになった。

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