独善に陥り、国際社会に背を向けて暴走するロシア。強力な経済制裁で対抗する欧米や日本。この先、我々を待つのはどんな未来なのか。内外の識者4人に世界秩序の行方を占ってもらった。

冷戦より不安定で危険な「冷戦+」に突入
イアン・ブレマー 米ユーラシア・グループ社長

イアン・ブレマー氏
イアン・ブレマー氏
米国際政治学者。1994年米スタンフォード大学で博士号を取得、史上最年少の25歳で同大学フーバー研究所の研究員に。98年にシンクタンク、ユーラシア・グループを設立。(写真=Maki Suzuki)

 我々は今、非常に危険な状況に置かれている。ウクライナを巡るロシアと北大西洋条約機構(NATO)加盟国との争いは今後、ますますエスカレートしていくだろう。

 ロシアが直接、NATO加盟国を攻撃するとは考えにくい。例えばポーランドに直接ミサイルを撃ち込むようなことはしない。ロシアの目的はあくまでもウクライナを支配下に置くこと、ゼレンスキー政権を倒して親ロシア政権を樹立することだ。

 ただ「戦争はウクライナの中だけで起きている」と考えるのは早計だ。戦争はロシアのプーチン大統領が想定していた通りには進んでいない。早々に勝って「ウクライナ解放」を実現し、ウクライナに住む人々にも歓迎され、NATOは分裂し、「親友」の中国との関係を強化する──。このいずれも実現できておらず、事態はもっと悪い方向に進んでいる。

 問題はロシア政府が、NATO加盟国によるウクライナへの兵器やロシアの秘密情報の提供、ロシアへの経済制裁をどうみるか。これらの行動が「ロシアへの攻撃」と映れば当然、同等の反撃を仕掛けてくる。

欧州は景気後退の恐れ

 その大半はサイバー攻撃や輸出規制を含む経済制裁になるとは思うが、想定外の事態が起こる危険性は常にある。先日も、ポーランド国境から十数マイル(約20km)しか離れていないリビウの軍施設にミサイルが落とされた。もしこれがポーランド側に着弾し市民を殺害していたら、武力衝突に発展したかもしれない。

 「冷戦+(プラス)」──。これから世界はソビエト連邦崩壊前の冷戦とも違う、もっと直接的な対立を含む冷戦に突入する。当然、経済的な損失は免れない。特に欧州諸国への影響は強く、リセッション(景気後退)に陥る可能性がある。米国への影響は国内総生産(GDP)の1%減程度にとどまるとみるが、ガソリンや食料品などの価格高騰が加速しインフレーションがより進むだろう。

 中国の動きにも注視している。国家主席の習近平(シー・ジンピン)氏は明らかにロシア側に立つ。だが、あまりロシアに傾きすぎると米欧や日米豪印の協力枠組み「クアッド」を刺激しかねない。米国の国家安全保障を担当するサリバン大統領補佐官も中国に対し、ロシアに協力すれば中国への制裁も辞さない意向を明確に伝えている。

 米国だけに目を向ければ、ウクライナ情勢はバイデン米政権に一部、プラスの効果をもたらした。3月1日のバイデン氏の一般教書演説では、ロシアへの姿勢で民主・共和両党のスタンディングオベーションを得た。だが戦争そのものは悪い方向に進んでいる。共和党の批判は11月の中間選挙を前に強まり、選挙も共和党有利に進むだろう。

 冷戦+は、コールドウォー(冷戦)とホットウォー(武力衝突)の中間に位置するため不安定さが伴う。従来の冷戦よりずっと危険だと認識しておくことが不可欠だ。(談)