この記事は日経ビジネス電子版の『ルノーは現地工場の稼働止めず 足並み乱れる欧州勢のロシア離れ』(3月23日)などの複数の記事を再編集して雑誌『日経ビジネス』4月4日号に掲載するものです
ロシアの影響力は、エネルギーや資源、軍事を通じ世界中に広がっている。経済制裁で連携する西側諸国も、簡単にロシアを切り離せない現実がある。欧州や米国、中国、アジアは新秩序にどう向き合おうとしているのか。
欧州
事業継続はいばらの道
高まる「接収合戦」への懸念

3月3日、家具世界最大手イケア(スウェーデン)のモスクワ店の前には、詰めかけたロシア市民の行列ができていた。
同社は3日、「戦争は人類に甚大な影響を及ぼしているだけでなく、サプライチェーン(供給網)と貿易に深刻な混乱をもたらしている」との声明を出し、ロシア国内の17店の営業を停止することを発表。ロシアの市民は生活必需品をそろえるために、イケアに殺到したのだ。
西側諸国のロシアへの経済制裁に歩調を合わせるように、西側の企業がロシアの店を閉めた。米マクドナルドや米スターバックスなど、世界的に名の知れた企業が次々と営業を一時停止。日本のファーストリテイリングは当初、「ユニクロ」50店の営業を続ける意思を示していたが、一時停止に転じた。
こうした動きにロシア政府は激しく反応した。プーチン大統領は3月10日、同国内での事業を閉鎖する企業に「外部からの管理を導入」すると表明し、撤退企業の事業を国有化する計画を示した。ロシア検察当局も欧米企業に対して、政府を批判する現地の経営者を逮捕したり、資産を差し押さえたりすると警告した。
ルノーの重要市場

ロシア事業を継続するかどうか、企業は難しい判断を迫られている。それを象徴するのが、フランスの自動車大手ルノーの動きだ。同社は2012年、日産自動車と共同でロシアの自動車大手アフトワズを買収。その前には当時、ルノー・日産連合のCEO(最高経営責任者)だったカルロス・ゴーン氏がプーチン大統領と固い握手を交わしている。ルノーはその後、アフトワズを子会社化した。
ルノーにとってロシアは重要市場だ。21年の販売台数約48万台は世界販売の2割近くを占める。販売シェア28.8%は母国フランスより高い。
ロシアのウクライナ侵攻後も、アフトワズの2つの工場は稼働を続け、ルノーの工場も稼働していた。「4万人の雇用を守るため」(関係者)というのがその名目だった。
しかし3月23日、ウクライナのゼレンスキー大統領がフランス議会でのオンライン演説で、「ルノーはロシアの戦争のスポンサーをやめるべきだ」と、仏政府が筆頭株主でもある同社を批判。その後、ルノーはモスクワでの生産を停止すると発表し、22年の業績予想を下方修正した。アフトワズについても今後取り得る選択肢を検討していくという。
フランスのエネルギー大手トタルエナジーズも当初は「今後、ロシアでの新規プロジェクトに資金を提供しない」と表明していた。ただ、既存の事業は継続していたため批判が集まり、ロシアからの原油の購入を年内に停止すると発表した。
米エール大経営大学院によると、3月21日時点でロシアでの事業の「一時停止」を表明した企業は186社で、「撤退」表明の165社より多い。撤退すれば資産を差し押さえられる恐れがあるため、一時停止で状況を見守る企業が多いようだ。あるアナリストは「人口およそ1億4400万人のロシア市場を簡単には切れないだろう」と指摘する。
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