業態転換や会社分割を通じ、国内外の企業が生まれ変わろうとする姿を見てきた。変革を成功させるために必要なのは、向かうべき「針路」を見定めることだ。

2021年12月、三菱ケミカルホールディングス(HD)は石油化学事業と炭素事業の分離を決断した。半世紀以上の歴史を持つ主力を他社との統合や売却で手放し、総合化学メーカーの看板を下ろす。「石化は大きいが成熟し、成長は限定的だ」。4月で就任1年を迎えるジョンマーク・ギルソン社長の即断に関係者は驚く。
「あまりに多くのことを手掛けすぎて分散している」。ギルソン氏自身が認めるように、三菱ケミカルHDは非効率な多角化経営によって企業価値が上がらない「コングロマリットディスカウント」に陥っている。3月中旬時点の株式時価総額は1兆2000億円程度で停滞。世界最大手のドイツBASF、米ダウや米デュポンなどの背中ははるかかなただ。
「5年で企業価値を最低でも2倍に引き上げてほしい」。就任時、ギルソン氏は当時の取締役会メンバーにこう頼まれた。市場評価を覆すには、収益力の向上が喫緊の課題だ。キャッシュを生み出せない事業を手放し、もうかる事業に経営資源を回す必要がある。脱炭素の潮流によるコスト増に苦しむ石化事業を、温存できる余裕はもはやないのだ。
コスト削減以外の戦略は?
「無駄」をそぎ落とした後、三菱ケミカルHDは何を目指すのか。ギルソン氏は技術難度が高く、高額で取引できるスペシャリティマテリアルズ(特殊材料)を成長の柱に据える。だが、この領域は世界の素材メーカーが最先端技術を駆使してしのぎを削る激戦区。何に貢献するためにどんな種をまくのか。根幹となる方針が定まらなければ、収益源として太く育てるのは容易ではない。
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