事業分割で世間を騒がせた米国企業はゼネラル・エレクトリック(GE)だけではない。IBMにダウ・デュポン……。コングロマリットの分社化が続くのはなぜなのか。ゲームチェンジの引き金を引いたのがアマゾン・ドット・コムなどのテック大手だ。

(写真=左:Brian Ach/Getty Images、右:AFP/アフロ)
(写真=左:Brian Ach/Getty Images、右:AFP/アフロ)
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 「顧客ニーズは時代とともに変化する。それに合わせて企業も変化しなければならないと考えた」

 米IBMのアービンド・クリシュナCEO(最高経営責任者)は、ITインフラの構築・運用などを手掛けるサービス部門を切り離した経緯をこう話す。分社化で2021年11月に誕生したのは、売上高187億ドル(約2兆2000億円)で従業員約9万人の「Kyndryl(キンドリル)」だ。世界各地に4600社超の顧客を抱える業界大手がIBMのブランドを捨て、ニューヨーク証券取引所に上場した。

 ITインフラの構築と運用はIBMが長らく得意にしてきた「おはこ」だ。創立110年目に大きすぎる決断を下したように映るが、クリシュナ氏は「後ろ髪は引かれなかった。過去へのこだわりはなく感傷的になることもなかった」と話す。

分かれた方が「強い」

 背景には、冒頭でクリシュナ氏が言うような「ニーズの変化」がある。

 顧客データや財務などの重要情報はかつて、社内に設置したメインフレーム(大型汎用機)やサーバーに格納するのが一般的だった。ところが過去10年ほど、通信環境の進化やスマートフォンの機能向上によりビジネスパーソンの働き方が多様化した。クラウドサービスの安全性も高まり、必ずしも社内サーバーにこだわらなくても済む時代になっている。

 そこでIBMが数年前から力を入れているのが、社内サーバーとクラウドを組み合わせて情報システムを運用する「ハイブリッドクラウド」だ。クラウド化の流れは不可逆的だと考え、19年には約340億ドルを投じてオープンソースのソフト開発に強みを持つ米レッドハットを買収。AI(人工知能)分野も強化してきた。すると、新たな問題に直面した。

 クラウド市場の最大手は、3割以上のシェアを持つ米アマゾン・ドット・コム傘下のAWS(アマゾン・ウェブ・サービス)で、2位が約2割の米マイクロソフト。後発のIBMはシェア数%と引き離されている。

 多くの企業にとっては、自社の情報システムをどのクラウド上に構築しても問題ない。安価でトラブルなく稼働することを優先し、実績のある大手を選ぶケースが多い。一方で、IBMのITインフラ部隊はAWSやマイクロソフトのクラウドを顧客企業に提案しにくい。IBM自身が手掛けるクラウドのシェアが低いため、機会損失が生まれていたのだ。

 クリシュナ氏は分社化を通じて、この問題を解決できると考えた。IBM本体に残るAI事業も、領域を絞ってM&A(合併・買収)などを進めれば経営スピードを高められる。出る側にとっても残る側にとっても「ウィンウィン」となるのだ。

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