この記事は日経ビジネス電子版に『日用品に迫る三重苦 花王が探し始めた「もう一つ」の成長エンジン』(3月22日)として配信した記事を再編集して雑誌『日経ビジネス』3月28日号に掲載するものです。
予測不可能な事態が次々と発生する世界で、どうすれば勝ち残れるのか。日用品国内最大手の花王は、危機の最中にあえて業態転換に挑む。異物を排除して得意分野に集中するだけでは、イノベーションは生まれない。

「もう一つの花王を起業する」。この壮大な目標に向かって、腕利きの研究者や各事業部門のエースら約100人が新規事業開発に取り組んでいる。プロジェクト名は「Another Kao(アナザー花王)」。構想の発案者は2021年1月に就任した長谷部佳宏社長である。
花王の創業は1887年。せっけんに始まり、ヘアケアやボディーケア、食器用洗剤やおむつなど「日用品」を主力に135年の歴史を紡いできた。だが長谷部氏は「今の事業だけではいずれ頭打ちになる」と危機感を抱く。「アナザー花王で目指すのは、過去とは違うビジネスモデルの構築だ。新しいエンジンが将来のために必要だ」。こうした思いから、これまで踏み込まなかったメディカル(治療・診断)領域への参入を目指す。
メディカル分野は各社が相次ぎ参入するレッドオーシャンだ。単なる医薬品開発で、後発組の花王が正面突破するのは難しい。そこで活用するのが日用品で培った肌表面や体内部までの人体計測技術だ。約3000人の研究員とAI(人工知能)の力を融合させ独自領域を開拓する。
切り込み役は、冒頭で述べた精鋭メンバーの一部が所属する「デジタル事業創造部」。AI開発スタートアップのプリファード・ネットワークス(東京・千代田)と共同で「仮想人体生成モデル」の開発に取り組んでいる。血液検査や健康診断情報などを入力するだけで、より詳しい1600以上の項目について内臓の異常や病気の予兆を推計できるモデルを構築。認知症や糖尿病などになるリスクを把握して、検査や予防薬などを花王が競合に先駆けて提供する。病院や薬局、製薬会社などとの協業も欠かせない。開発構想を発表して以降、パートナー候補から打診が相次いでいるという。
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