この記事は日経ビジネス電子版に『威圧的な説教に公私の拘束も、なぜパワハラはなくならないのか 』(3月14日)として配信した記事を再編集して雑誌『日経ビジネス』3月21日号に掲載するものです。

ハラスメントは認知度が高まり、防止策を講じる企業が増えてきた。組合や外部機関への通報で表沙汰になりやすい環境は広がりつつある。だが業務の最前線では、当事者の自覚が希薄で事態が悪化するケースが今なお続く。

あるメーカーでパワハラ被害を受けた社員が書いたメモの後半は字が荒くなっていた
あるメーカーでパワハラ被害を受けた社員が書いたメモの後半は字が荒くなっていた

 「何でこんなに数字が悪いんやろうな。恥ずかしくないんか。同じ恥さらすなら、話しやすい優秀な後輩に頭下げてちゃんと教えてもらえよ」

 国内の大手電機メーカーに勤める宮下信二さん(29歳、仮名)のICレコーダーには、2021年10月下旬に上司である部長と43分間にわたってやり取りした様子が録音されている。部長には、男性の声に耳を傾け、具体的かつ有効なアドバイスを探る気配がない。

 宮下さんが法人向けの営業部門に異動してきたのは21年2月。部長も同じタイミングで出向先の子会社から戻ってきた。パナソニック創業者である松下幸之助氏の経営理念「信賞必罰」を掲げて組織を厳しく運営する考えを示したものの、しばらくの間は宮下さんを含めた若手社員と交流する機会がほぼなかったという。

 部長の態度が急変したのは7月下旬。宮下さんが、所属するチームを統括する先輩社員と共に呼び出されてからだ。「半年間は様子を見ていたが、そろそろ限界や」。部長は男性の詳細な営業データを淡々と示しながら、改善策を早期に報告するよう求めた。宮下さんは1時間ほどで解放された後、目まいを感じてトイレに駆け込み嘔吐(おうと)したという。

「集中指導」で管理が激化

 翌日から「集中指導」と称した部長の管理は激化していった。新型コロナウイルス禍が続いてもリモート業務は認められず、宮下さんのオフィスの机は部長の目の前に移動。1日の業務終了後には詳細なリポートの提出を義務づけられた。さらに休日も、部長の趣味であるアウトドアとスポーツに隔週で誘われ、自由を奪われていった。

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