この記事は日経ビジネス電子版に『ファーウェイ、エピック…… ソフト化する車に商機、異業種群がる』(3月9日)として配信した記事を再編集して雑誌『日経ビジネス』3月14日号に掲載するものです。
ソフトウエアが主戦場となる自動車産業に企業が続々と集まっている。自動車メーカーや部品メーカー、IT企業が成長をかけて知恵と技術を投じる。飛躍を目指す新興企業、復活をうかがう古豪──。大競争の幕が開けた。

中国IT 必然の参入
2021年4月、中国の上海国際自動車ショー(上海モーターショー)の会場で、「HI」という赤いロゴが付いた1台の電気自動車(EV)が披露された。中国通信機器最大手、華為技術(ファーウェイ)が開発するEV技術を搭載した車だ。
HIとは「ファーウェイ・インサイド(Huawei Inside)」の略称で、自動運転機能やEVの駆動部品、車載ディスプレーなど、同社が開発する自動車向け部品やソフトウエアを示す。中国ではすでに国有自動車大手や商用車メーカーなどでファーウェイの製品群の採用が進む。
百度(バイドゥ)、騰訊控股(テンセント)、アリババ集団……。自動車業界で中国巨大IT(情報技術)企業の名を聞くことも、今や珍しいことではなくなった。彼らが自動車産業に触手を伸ばす動機、すなわち、大手自動車メーカーに対抗する彼らの強みはいくつもある。
例えば、IT産業には技術者の数によって開発力が決まる「労働集約型産業」の側面があり、膨大な技術者を抱えることは大きな強みだ。ファーウェイは人工知能(AI)や5Gといった領域を中心に総勢10万人以上の技術者を抱え、自動車関連部門だけでも5000人を超える。
また、コネクテッドカー(つながる車)が発展し他のデバイスと連動するようになると、これまでスマートフォンを中心に普及させてきたソフト基盤やエコシステムとの連携でも力を発揮する。
ファーウェイはスマホやタブレットにも使う独自OS(基本ソフト)「ハーモニーOS」を自動車のインフォテインメントシステムに拡大。車とスマホといった異なる端末同士での、データ連携を円滑にさせる。アリババも独自の「AliOS」によって、自社の決済システムや音声認識などを車内で使用可能にする。アリババ経済圏に車を引き込む狙いだ。
「EVは構造が簡単になるため異業種にとって参入障壁が低い」といわれ、IT企業のEV参入がしばしば取り沙汰される。しかし、中国大手が実際に自動車を造るところまで踏み込むかは見通せない。
例えば、ファーウェイは度々「車を造らない」と表明している。自動車メーカーとなってEVを造って売ることではなく、EVや自動運転車の心臓部であるソフトの主導権を握ることこそが目的だと示唆している。車に求められる機能の高度化で、IT企業にとって千載一遇のチャンスが広がっているというわけだ。
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