この記事は日経ビジネス電子版に『ソニー・ホンダEV連合の衝撃 脱・車の発想でテスラ、アップルに対抗』(3月7日)、『トヨタ・VWが開発急ぐ車載OS ソフトを制する者が「未来の車」制す』(3月8日)、『自動運転技術で争奪戦 トヨタ・VWはM&A、グーグルも勢力拡大』(3月8日)として配信した記事を再編集して雑誌『日経ビジネス』3月14日号に掲載するものです。

自動車の競争力を決める「価値の軸」が、ハードからソフトへと移り始めた。ゲームチェンジを狙う米テスラに対し、大手はソフト主導への転換を急ぐ。ソニー・ホンダ連合という強力なプレーヤーも登場。勢力図はどう動くのか。

提携を発表したソニーグループとホンダの両首脳(3月4日)(写真=小林 淳)
提携を発表したソニーグループとホンダの両首脳(3月4日)(写真=小林 淳)

 ソニーとホンダが組み、未来のモビリティー(移動)を生み出す──。おとぎ話のような提携が、現実のものとなって動き出した。3月4日、ソニーグループとホンダはモビリティー分野での提携を発表。両社で新会社を設立し、2025年をめどに電気自動車(EV)の発売と車向けサービスの事業化を目指すと表明した。

 「新しい面白い価値をつくる」。ホンダの三部敏宏社長は会見で、ソニーと組んだ意図についてこう繰り返した。EVというハードを造ることにとどまらず、コンテンツやサービス、ネットワークを駆使して未来のモビリティーを世に問う。そこで生きるのが、ソニーが培ってきたソフトウエアの技術や知見だ。

 「100年に1度の大変革」とされるCASE(つながる車、自動運転、シェアリング、電動化)。プロローグで見たように、先頭をテスラが実現した「ソフトが主役」の車が走り、新興勢もそれを追う。ソフトの価値を高め、収益化できるかどうかに、CASE時代の生き残りがかかる。この課題に直面するホンダの目の前に現れたのが、スマートフォンやコンテンツビジネスをはじめとしたデジタル分野で一日の長があるソニーだった。

 ホンダの三部社長が「(自動車産業の)変革の震源地はデジタル技術によるモビリティーの拡張にある」と述べたのに対し、「三部さんとモビリティーの進化を共有したいという思いがあった」と応じたソニーの吉田憲一郎会長兼社長。戦後生まれの日本企業を代表する2社のトップが新たな価値創造を誓い合った。

 世界の巨人は一足早く動いている。「『ソフトウエア・ファースト』で車造りを次のフェーズに持っていく」。NTTと約2000億円の相互出資を決めた20年3月の共同会見で、トヨタ自動車の豊田章男社長はこう宣言した。NTTのソフトの技術を取り込んだ上で、海外スタートアップを矢継ぎ早に買収するなど、この2年、トヨタはソフト開発力の強化に血道を上げてきた。

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