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賃上げと能力開発、表裏一体
コモンズ投信社長
伊井哲朗氏
内部留保が増えているのになぜ企業は賃上げに積極的でないのでしょうか。

賃上げによる消費拡大で経済の好循環が生まれれば、企業も恩恵を受けられる。だからもっと従業員への利益配分を手厚くすべきだとの声があります。ただ、企業側からすれば、人材の価値が高まっていないのだから、これまでよりも高い給料を払う理由がないと考えるのが合理的ではないでしょうか。単に賃上げするだけでは、企業の固定費が増えるだけだとも言えます。
一方で、デジタル技術やAI(人工知能)といった時代のニーズに即した知識を持つ人材には惜しみなく高い報酬を払う。企業価値向上に資すると考えるからです。
スキルの高い人材は、会社にとっての資産になります。最近目立つのは、従業員全体のスキルの底上げを図ろうとする動きです。社内大学など、学びの機会を充実させる企業がずいぶん増えました。
スキルの高い従業員を大勢確保できれば、組織内の人材配置に柔軟性が生まれます。これによって社会や産業の構造変化に応じた新規事業の立ち上げや不採算部門の統廃合など、構造転換がしやすくなるのです。生産性や収益性も高まるでしょう。従業員への人的投資を強化し、その成果が出て初めて賃上げが可能になる。従業員の能力開発と賃上げは表裏一体のはずなのです。
投資家としても、人に投資する企業に注目しているのですね。
当社は長期投資を運用方針に掲げています。企業との対話においては、競争力を持った人材を育成するためにどのような戦略を持っているか常にヒアリングしています。従業員の年齢別キャリア育成プランについては、かなり突っ込んで議論します。
人材を育てても、転職してしまうからコストパフォーマンスが悪いという考えもあるでしょう。ですが人材価値を向上させる投資を企業が継続的に行うことは、社会全体の生産性向上、産業の新陳代謝を促すことにもつながります。結果的に日本全体の経済活性化や所得向上、すなわち賃上げが実現しやすい環境が整う。
政府も政策を通じてこうした企業の動きを強力に支援すべきだと考えます。企業と政府が一体となった人的資本政策が、生産性を上げるエコシステムの形成につながるはずです。
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