この記事は日経ビジネス電子版に『キーエンス 1000本ノックで鍛える営業力、囲い込みは「ダサい」』(2月10日)として配信した記事を再編集して雑誌『日経ビジネス』2月21日号に掲載するものです。
キーエンスは人材育成手法も独特だ。「ロープレ」で顧客との商談に備え、「外報」を使って予定を分刻みで管理。重要な気づきは「ニーズカード」に記録する。個の能力を高めつつ、情報を全社で共有する文化が組織そのものを強くする。

1月中旬、金曜日の18時。キーエンスの東京営業所(東京・港)で1日を締めくくる恒例行事、「ロープレ」が始まった。

「現在は指の第一関節ほどですが、以前はこぶしサイズでした」
「どうやって小型化したか。この緑色のレーザーがポイントなんです」
工場で使うレーザーセンサーを持って熱弁を振るうのは、入社9年目でセンサ事業部チーフの兼田真吾さんだ。ロープレはロールプレイングの略語。2人1組で顧客との商談を事前にシミュレーションする、キーエンス独自の人材育成手法である。
「言葉の選び方、話す順序を変えるだけで伝わり方が全然違います」と兼田さん。顧客役の社員が「断ったとき」や「迷っているとき」などを演じ分けると、兼田さんの説明スタイルも変わっていく。
ここで重要なのが「デモ」だ。キャップの浮いたコンタクトレンズケースなど、身近なものを使いながらレーザーセンサーの特徴を解説していく。百聞は一見にしかず。カタログスペックを解説するよりも、直接見せてしまった方が話が早い。
ロープレを実施するのは、新製品発表前など特別なタイミングだけではない。OBいわく「歯を磨くように毎日繰り返す」。1日3回、朝昼晩実施した人もいたという。「あんなに高頻度かつ熱心にやっているのはキーエンスぐらいだ」と競合メーカー幹部も認める。下に示した兼田さんのスケジュール表を見れば、その理由が分かるだろう。
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