この記事は日経ビジネス電子版に『キーエンス シェア獲得の武器は神出鬼没の営業パーソン』(2月9日)として配信した記事を再編集して雑誌『日経ビジネス』2月21日号に掲載するものです。

営業利益率55%を誇るキーエンスの強さの原動力が「直接営業」だ。迅速な対応で他社を圧倒し、ニーズを細かく聞き取って商品を開発。顧客のキーパーソンの異動情報まで共有し、組織を挙げて売り込みをかける。

<span class="fontBold">エーワン精密は、キーエンスからレーザーマーカーを購入。営業担当者の迅速な対応が決め手となった</span>(写真=北山 宏一)
エーワン精密は、キーエンスからレーザーマーカーを購入。営業担当者の迅速な対応が決め手となった(写真=北山 宏一)

 「レーザーマーカーを購入されるご予定ですか」

 2021年冬、工作機械用部品を手掛けるエーワン精密の山梨工場でレーザーマーカーが故障した。同社は旋盤などに加工対象を固定する「コレットチャック」で、国内シェア60%を占める最大手だ。コレットチャックは、中心に穴の開いた、高さ3~15cm程度の円筒形の部品。穴の寸法は1点ずつ微妙に異なるため、レーザーマーカーでサイズを印字しなければ部品の判別ができない。

 同社の室田武師専務取締役は既存の生産ラインとの相性を考慮し、これまで通りパナソニック製を再び購入しようと考えていた。ところが声をかけてきたのはキーエンスの営業担当者。まるで、故障を知っていたかのようなタイミングだった。

 種明かしをすれば単純だ。キーエンスの営業担当は室田氏を訪ねる直前、エーワン社内の別部署でレーザーマーカーの販売を終えていた。その去り際、いつもの習慣でこう尋ねた。「他にお困りの方はいませんか?」。その答えが彼を、隣の建屋に向かわせた。

 それからの動きは早かった。数日後に再び来訪。1分ほどで自らレーザーマーカーを組み立てて、室田氏の目の前でデモを披露した。訓練を積んだ口調で機能を紹介し、質問への返事もよどみない。納得した室田氏はその場で購入を決断した。

 パナソニックには故障後に連絡し、購入意向も伝えていた。だが同社の営業担当が返答したのは、キーエンス製の購入後。パナソニックはみすみす販売機会を逃した。

 訓練された営業担当者が常に需要を探り続け、チャンスとみたら電光石火で勝負をかける。山梨工場での受注は決して偶然ではない。

次ページ 売上高は44.7%増