この記事は日経ビジネス電子版に『「東大阪事件」後のセブン 加盟店オーナーへの一方通行からの決別』(2月9日)として配信した記事を再編集して雑誌『日経ビジネス』2月14日号に掲載するものです。
50年近い歴史を重ねたコンビニエンスストアには制度疲労も目立つ。本部優位の「殿様商売」では加盟店オーナーの離反を招きかねない。成長が頭打ちの国内コンビニ事業をぐらつかせないことが喫緊の課題だ。

「セブン-イレブン」の看板を掲げた2つの店舗が柵を挟んで並ぶ異様な光景が広がる。もともとここで営業していた店舗は休業中。駐車場として使われていた敷地に建った仮設店舗が2021年5月から営業を始めている。
ここは大阪府東大阪市。セブン-イレブンの事業モデルの根幹であるフランチャイズ契約、ひいてはコンビニエンスストアそのものの課題をあぶり出した事件の震源地だ。
19年2月1日、「セブン-イレブン東大阪南上小阪店」がセブン-イレブン本部の反対を押し切って時短営業に踏み切った。オーナーの松本実敏氏が人手不足のため24時間営業を継続できないと主張したものの、24時間営業を原則とする本部と対立したのが理由だった。
行政を巻き込む議論に発展
同年12月末にはセブン本部が松本氏とのフランチャイズ契約を解除する。顧客からの苦情件数が多いことや、ツイッターに本部を批判する内容を投稿していたことを解除の理由とした。その後、松本氏はオーナーの地位確認を求める訴えを、本部は松本氏が拒んでいた店舗の引き渡しを求める訴えをそれぞれ起こした。
係争は現在も続いている。松本氏が引き渡しを拒む店舗の駐車場に仮設店舗を建てて運営しているのはセブン本部だ。
この事件はコンビニの「大原則」だった24時間営業に関する、行政を巻き込んだ議論に発展した。19年4月には世耕弘成経済産業相(当時)がコンビニ8社のトップを呼び、持続可能な運営のための行動計画を策定するよう求めた。
21年4月には公正取引委員会が「フランチャイズ・システムに関する独占禁止法上の考え方」を改訂。本部が加盟店との24時間営業の見直しの協議を一方的に拒絶することは独占禁止法上の優越的な地位の乱用に当たる恐れがあると明記した。
この過程でコンビニオーナーの過重労働の実態も明らかになった。20年9月に公取委が公表した調査では、オーナーの年間の平均休暇日数はわずか21.3日だった。年間の平均深夜勤務日数は84.7日に上った。社会保険労務士の安紗弥香氏は「人手不足や自身の過重労働で悩んでいるオーナーは以前から多くいた。しかし、それは加盟店側の問題だと言って本部が放置してきた」と当時の状況を指摘する。
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