この記事は日経ビジネス電子版に『セブン&アイ、覚悟のコンビニ回帰 脱・流通コングロマリット』(2月3日)として配信した記事を再編集して雑誌『日経ビジネス』2月14日号に掲載するものです。

カリスマが描いた「流通コングロマリット」の夢が幻で終わろうとしている。業績も株価も停滞し、物言う株主からの圧力も強まっていた。経営を引き継いだトップに残されていたのはコンビニ回帰の道だった。

 「セブン&アイ、そごう・西武を売却へ」。2022年1月末、日本経済新聞が報じたニュースが流通業界を駆け巡った。当のセブン&アイ・ホールディングス(HD)関係者も「もともと構造改革の一環として事業ポートフォリオの見直しを考えてきた」と否定しない。

 大和証券の津田和徳アナリストは「セブン&アイHDの課題は事業ポートフォリオ改革が遅れている点にあった」と話す。市場から大胆な構造改革を求められてきたセブン&アイHDがついに動き出した。

動いた物言う株主

 そごう・西武の売却方針の報道から遡ること約1週間。セブン&アイHDは取締役会に宛てた1通の書簡を受け取っていた。送信したのは、「物言う株主」として知られる米バリューアクト・キャピタルだ。

 文面には、セブン&アイHD経営陣への厳しい言葉が並んでいた。「貴社は、戦略的な集中にかけており、そのポテンシャルに比して大幅にアンダーパフォームしています」「当社の考え及び協力の申し出に対する貴社経営陣の回答は、満足のいくものではありませんでした」(原文ママ)

 日本企業ではオリンパスやJSRなどの株式を保有して社外取締役を送り込み、経営の改善を求めてきたバリューアクト。21年春にセブン&アイHD株を4.4%保有していることを発表し、経営陣に対してコンビニエンスストア「セブン-イレブン」事業への集中を求めてきた。セブン&アイHDの井阪隆一社長は「積極的かつ建設的に対話してきた」と話すものの、バリューアクトは歩み寄りがないことにしびれを切らしたようだ。

 書簡では、社外取締役が株主から直接意見を聞く機会を持つこと、そして社外取締役のみで構成する「戦略検討委員会」を組成することを要求。その書簡を一般に公開する異例の手法でセブン&アイHD経営陣に決断を迫った。

 井阪氏がセブン&アイHD社長に就任してから間もなく6年。思えば、波乱の船出だった。

 セブン&アイHDには絶対的な「カリスマ」がいる。鈴木敏文氏だ。1973年に後のセブン-イレブン・ジャパンとなるヨークセブンを設立し、コンビニエンスストアを日本中に広めた立役者だ。2005年からはセブン&アイHDの会長兼最高経営責任者(CEO)として営業収益約6兆円の巨大流通企業に育て上げた。

<span class="fontBold">コンビニを日本に定着させた「カリスマ」鈴木敏文氏は2016年、井阪隆一氏の退任を取締役会に諮った結果、自らの退任を決めた</span>(写真=的野 弘路)
コンビニを日本に定着させた「カリスマ」鈴木敏文氏は2016年、井阪隆一氏の退任を取締役会に諮った結果、自らの退任を決めた(写真=的野 弘路)

 約40年にわたり経営トップを務めた鈴木氏が突如として退任を表明したのは16年4月7日のこと。同日に開催された取締役会で、鈴木氏の提案した人事案が否決されたのが退任の理由だった。その人事案こそ、当時セブン-イレブン・ジャパンの社長兼最高執行責任者(COO)だった井阪氏を退任させ、副社長の古屋一樹氏を昇格させるというものだった。

 この案は創業者である伊藤雅俊名誉会長の反対に遭い、15人が参加する取締役会では賛成票が過半に達せず否決された。記者会見した鈴木氏は創業家について「世代が変わった」と発言するにとどめ、「反対票が社内の役員から出るようならば、私が信任されていないということだと考えていた」と説明した。

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