日本の年金制度改革は、なぜ事実上の失敗を繰り返すのか。経済成長や人口政策と一体でなければ、公的年金だけの改革はうまくいかない。産業、労働など広い角度からの高齢化対策こそが日本再生のきっかけになる。

(写真=アフロ)
(写真=アフロ)

 「欧米の年金制度で取り入れられるものは採用している」。2000年代で最大のものとなった04年の年金制度改革時、厚生労働省の主要担当課の一つ、数理課で課長を務めていた坂本純一氏はこう振り返る。

 保険料をある時期まで引き上げて、そこで止める保険料固定方式はスウェーデンに、人口減を給付額に反映させるマクロ経済スライドはイタリアに学んだという。

国ごとに仕組みにはばらつきがある
●年金制度の国際比較
<span class="fontSizeL">国ごとに仕組みにはばらつきがある</span><br />●年金制度の国際比較
注:2022年1月1日時点。支給開始年齢は、給付算定式で得られた額を増減なく受給できる年齢。ドイツは一般年金保険、スウェーデンは所得に基づく保険料率、支給開始年齢などを記載
出所:厚生労働省
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 当時、保険料の引き上げが限界に近づいていたことや、少子高齢化が急速に進む中、日本に似た状況に先に対応していた国々の仕組みを取り入れ、ベストの体制を作ったはずだった。新たな仕組みは04年6月に導入され、坂本氏は翌月、役所の慣行に従って本来の定年前に退職した。

 これまで見たように、その「最善の仕組み」は思うように機能していない。世界にはもう学べる「先生」はほとんど見当たらない。日本は自らの手で、老後の備えを再強化する時だ。

名目下限措置の撤廃を

 まずは年金の仕組みをどう作り直すか。1つ目のポイントは、マクロ経済スライドを毎年きちんと機能させることだ。人口減や長寿化の影響を加味して今の高齢者の給付を抑え、将来の給付を保ちながら年金財政を維持するためには避けて通れない。

 今の年金制度には、賃金や物価の変動幅によってマクロ経済スライドを実施すると名目年金額が前年度よりも下がる場合は、発動しないか、一部にとどめる名目下限措置と呼ばれる仕組みがある。これをまず撤廃すべきだろう。