この記事は日経ビジネス電子版に『「中興の祖」ランキング』(2021年12月29日、22年1月17~21日)として配信した記事を再編集して雑誌『日経ビジネス』1月24日号に掲載するものです
「失われた30年」の間に、東芝やシャープの社長はリスクを取って、惨敗した。対照的に大きな成果を残した信越化学やダイキンの経営者と比べ何が足りなかったのか。中興の祖になれなかった者たちの挫折から、産業史に足跡を残す経営者の条件を探る。
IHIと東芝の中興の祖と称される土光敏夫氏は、時代に愛されていた。
1950年6月24日、経営難に陥っていた石川島重工業(現IHI)の社長に土光氏が就任すると、翌日に朝鮮戦争が勃発。旺盛な軍需によって日本経済は息を吹き返した。「石川島の業績は、まさに文字通り目覚ましく伸びていった」。82年1月に連載した日本経済新聞のコラム「私の履歴書」で土光氏はそう振り返っている。
65年5月に東京芝浦電気(現・東芝)の社長に就任すると、今度はその半年後にいざなぎ景気に突入し、「好況の波にのって、東芝はみるみる回復した」(私の履歴書から)。2度もツキに恵まれた土光氏は、「私はたいへん幸運な男」(同)と自らを評した。
時代に愛されぬ経営者たち
対照的に、バブル経済が崩壊した90年代以降の経営者は、時代に愛されたことがない。アベノミクスなどで景気拡大局面を迎えたとしても、かつての高度成長には遠く及ばない。景気の波に乗るだけで業績を伸ばせた幸せな時代は、とうに過ぎ去った。
だからこそ、現代の経営者は先を読む力が強く求められる。数少ない成長の機会を正しく見極める先見性と、他社に先んじて経営資源を投下する胆力がないと、日本経済とともに会社は沈んでいく。
今回のランキングで1位に輝いた信越化学工業の金川千尋会長は、先見性こそが経営の要諦だと述べる。自伝では「事業の過去、現在の姿を正確につかみ、将来どうなるかを予測して投資判断をしている。これが経営者の仕事だ」と説く(金川氏著『毎日が自分との戦い』=日本経済新聞出版社=から)。
金川氏は90年以降、信越化学の社長として、緻密な需要予測に基づいてシリコンウエハーの生産能力を大幅に引き上げるなど、巨額の投資判断を的確に下し続けた。
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