この記事は日経ビジネス電子版に『EVは見かけ倒しから脱却 米中対立、統制強化でもめげない中国企業』(1月11日)として配信した記事を再編集して雑誌『日経ビジネス』1月17日号に掲載するものです。

党や政府による統制が強まる中で、企業の活力をいかに維持するのか。中国の各産業はあの手この手で生き残り、成長しようともがいている。巨大市場で党や政府への「対策」を模索する中国企業の生命力は強い。

<span class="fontBold">広州汽車集団は2021年11月の広州モーターショーでフル充電時の航続距離が1000km超の新型電気自動車を公表した</span>(写真=朝日新聞社)
広州汽車集団は2021年11月の広州モーターショーでフル充電時の航続距離が1000km超の新型電気自動車を公表した(写真=朝日新聞社)

 第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)後の2021年11月19~28日、広州モーターショーが開催された。のべ78万5000人が来場した展示会で、国内外のメーカーはこぞって電気自動車(EV)の新製品やコンセプトカーを出展した。

 その中でひときわ業界関係者の注目を集めていたのが、広州汽車集団のブースだ。フル充電した場合の航続距離が1008kmに達するという新型車「GAC 埃安(Aion)LXプラス」を披露。航続距離が1000kmを超える量産EVは世界初としている。モーターには日本電産の「E-Axle」を採用している。

 同ブースには「TIME」と名付けたクーペタイプのコンセプトカーも展示されていた。特定条件下で完全自動運転が可能なレベル4を想定しており、居住性にこだわった。側面の観音開きのドアを開けると室内にはコーナーソファが配置され、内装には高級感のある木材があしらわれている。その場で説明してくれたデザイナーは「走行性能、自動運転時代の新たな使い方、中国文化を融合させた」と力を込めた。

 広州汽車は21年7月、トヨタ自動車からカムリのチーフエンジニアを経験した勝又正人氏を迎え入れたと発表した。業界関係者は「中国製EVは見かけ倒しという印象だったが、電池やモーターの技術革新、デザイン力の向上で、日米欧のメーカーに並ぼうとしている」と指摘する。

 米中対立の顕在化以降、中国は医療分野などの政府調達で国産品を購入するよう通達を出すなど、中国製品の優遇を打ち出している。消費者の間でも中国現地ブランドを購入する傾向が強まっており、若者の間では中国の伝統文化を取り入れたファッショントレンド「国潮」が話題だ。

 中国は内燃機関では日米欧の自動車メーカーとの技術の差を埋められなかった。だが、「CASE」時代の到来を千載一遇の好機とみて、官民一体で技術開発にまい進している。米中対立の激化とコロナ禍による世界の分断がその傾向に拍車をかける。

(写真=新華社/共同通信イメージズ)
(写真=新華社/共同通信イメージズ)
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 中でも力を入れているのが自動運転分野だ。同技術の開発に最も重要なのは「実地での経験」。公道上では二輪車や歩行者、大きな荷物を積んだ電動リヤカーなどが様々な気象条件の中で予想外の挙動を見せる。中国政府は積極的に公道での無人運転を可能にするライセンスを付与し、自動運転技術の育成を後押しする。

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