この記事は日経ビジネス電子版に『世界揺るがす中国恒大、2度の「文革」が翻弄する創業者の半生』(2021年9月22日)として配信した記事を再編集して雑誌『日経ビジネス』1月17日号に掲載するものです。

中国の不動産大手、中国恒大集団が事実上デフォルトした。急成長した中国経済の中核とも言える不動産産業で何が起きているのか。恒大創業者である許家印氏の激動の半生から読み解く。

<span class="fontBold">経営危機に陥っている中国恒大集団は収容観客数10万人のスタジアムを建設していた</span>(写真=朝日新聞社)
経営危機に陥っている中国恒大集団は収容観客数10万人のスタジアムを建設していた(写真=朝日新聞社)

 総工費は120億元(約2190億円)、収容観客数は10万人──。中国南部の広東省広州市では今、世界最大規模の巨大サッカースタジアムの建設が進んでいる。

 このスタジアムを建設しているのは、その経営危機を世界が注視している中国恒大集団だ。同社は2021年12月、社債の利払いを実行しなかったと認定され、広東省政府は経営監督チームを送り込んだ。

 スタジアムの建設工事は恒大集団の資金繰りが厳しくなった6月ごろから滞るようになり、工事の中断や先行きを危ぶむ報道が出るようになった。だが、記者が21年11月に訪れた時には工事が再開されていた。政府が事実上管理下に入れたためだ。

 市政府は既に土地使用権を回収、再入札にかける計画だという。プロジェクトの引き受け手となる企業も探しているようだ。これほどの巨大プロジェクトが停止したままでは社会不安をあおりかねないとの判断だ。

 恒大集団の経営危機がここまで注目を集め、地元政府がプロジェクトの状況を気にしているのは、不動産開発が中国の経済成長のエンジンだったからにほかならない。

 「住宅は住むためのものであり、投機の対象ではない」

 習近平指導部が17年ごろから使うようになったフレーズだ。不動産は関連産業を含めれば中国の国内総生産(GDP)の3割程度に達するとの試算もある。

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 中国においては、すべての土地が国家か農民集団の所有だ。民間企業にマンションを建ててもらい、土地の使用料を得れば、地方政府の財政は潤い、地元の雇用も生まれる。「鬼城」と呼ばれる住人がいないゴーストマンションが各地にできるなどの弊害はあったが、投資熱の高まりによる不動産価格上昇は不動産会社、建設会社、金融機関、中央政府、地方政府などの関係者すべてにとって好都合だった。

 その追い風を最大限に利用して飛躍的に成長してきたのが恒大集団だった。負債総額は21年6月時点で約2兆元と、中国の名目GDPの約2%に相当する。従業員数は約20万人。ドル建て社債は192億ドルに上り、海外投資家への影響も大きい。

 恒大は在庫の現金化を急いでおり、不動産市場の下押し材料になっている。他の不動産会社や建設会社などの取引先、地方政府など恒大の経営危機の影響は広範囲に及ぶ。

 創業者である許家印会長の半生は、今や世界第2位の経済大国となり10年以内に首位の米国を抜き去る可能性もある中国の経済発展の歴史と密接にリンクしている。

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