この記事は日経ビジネス電子版に『ビジョン・ファンド日本上陸の余波 起業家の目を覚ますか』(2021年12月27日)として配信した記事を再編集して雑誌『日経ビジネス』2022年1月10日号に掲載するものです。
ビジョン・ファンドの方針転換は、日本のスタートアップ、そして産業界にも影響を与えそうだ。2021年10月に国内で初めてとなる案件を決め、いよいよ投資活動を本格化させる。世界へといざなう水先案内人の登場で、起業家の目は覚めるのか。

「スタートアップが育たず、産業の新陳代謝が進まない」──。日本の経済成長が停滞している要因の決まり文句だ。そんな状況を変えるきっかけとなるかもしれない。ソフトバンク・ビジョン・ファンドの日本上陸は、関係者にそんな期待を抱かせる「名刺代わりの一発」だった。
2021年10月、日本第1号となったのは製薬スタートアップ、アキュリスファーマ(神奈川県藤沢市)。ビジョン・ファンドなど6社からの調達額は68億円に上った。
異例の調達金額
情報サービスのイニシャル(東京・港)によれば、20年に資金調達したスタートアップの平均調達額は約3億円。設立1年に満たないアーリーステージ(創業初期)企業としては異例の金額だ。スタートアップ支援を手掛ける投資銀行幹部は「(ビジョン・ファンドは)世界各地で非上場投資のゲームを変えた。日本もそうなる」と予想する。
ビジョン・ファンド上陸がスタートアップへの投資環境を一変させた前例はいくつもある。
例えばインド。「近い将来、世界の中心になる」と孫正義氏が予見したのは約10年前。ネット環境は未整備で投資家も敬遠する市場だったが、孫氏はむしろアクセルを踏んだ。他の投資家を巻き込み、モバイル広告のインモビやネット通販のスナップディール、配車サービスのオラなど次々と大規模投資に踏み切っていく。
それに刺激を受け、各国の有力な投資家やIT関連企業がインドに注目し始め、資金調達のたびに投資規模のケタが上がっていく。PART2で見たペイティーエムなど、そのときにまいた種が今まさに実を結ぼうとしている。これは、東南アジアでも似たような構図だ。
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