この記事は日経ビジネス電子版に『 ドバイとボストンで見た金の卵 孫正義氏が描く「群戦略」の主役たち』(2021年12月28日)として配信した記事などを再編集して雑誌『日経ビジネス』2022年1月10日号に掲載するものです。
孫正義氏が志す、出資先企業のつながりが新たな価値を生む「群戦略」。主役は世界中のスタートアップ企業で、シナジーも徐々に生まれつつある。日印中の連携プレーで生まれたスマホ決済の「PayPay」は、そのモデルの一つだ。
アラブ首長国連邦(UAE)のドバイ。高層ビルが立ち並ぶ中心地から少し離れた地域にその現場はあった。
ユニホーム姿の数十人の宅配ドライバーが、ベンチに腰掛けて待機している。アナウンスと同時にモニターに番号が映し出されると、料理を受け取り急ぎ足で退出していく。圧巻なのは巨大な厨房だ。3本のベルトコンベヤーに沿ってキッチン台がずらりと並び、料理人たちが次々に料理を流していく。
2018年創業で、宅配専用の調理施設「クラウドキッチン」を運営するキトピ。ソフトバンク・ビジョン・ファンドが中東で初めて出資した企業だ。UAEのほかサウジアラビアやクウェート、カタール、バーレーンの5カ国で約100の拠点を持ち米パパ・ジョンズ・ピザや米シェイクシャックなど約300ブランドと提携する。
21年7月にビジョン・ファンドを中心とする投資団から4億1500万ドル(約470億円)の出資を受けたことで資金調達総額が10億ドルを超え、ユニコーンの仲間入りを果たした。ビジョン・ファンドのマネージング・パートナー、サレ・ロメイ氏は、「労働コストや不動産価格などからドバイはクラウドキッチンに適した場所であり、キトピはキッチンの効率化で突出している」と評する。
資金源から起業の地へ
ビジョン・ファンドはもともと、ソフトバンクグループとサウジアラビアの公共投資ファンド(PIF)などの出資により創設。1000億ドル(約10兆円)ものマネーが、世界中のテック企業に供給された。
一般的に投資のための資金源とみられ、起業は少なかった中東。しかし、人工知能(AI)による技術革新の波はこの地にも訪れ、野心的な若者たちが会社を興し始めた。
キトピのモハメド・バーラウト最高経営責任者(CEO)もその一人だ。「高効率のシステムを確立し、世界のクラウドキッチン運営企業の中でも最大級の注文数がある」と胸を張る。
ビジョン・ファンドが注目したのはその規模もさることながら、AIを使った技術だ。キトピでは200人のエンジニアが働き、うちポーランドのクラクフに100人がいる。22年には2倍に増やす予定だ。
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