この記事は日経ビジネス電子版に『孫正義vs起業家「深夜の30分1本勝負」 判断間違えば数百億円失う』(2021年12月27日)として配信した記事を再編集して雑誌『日経ビジネス』1月10日号に掲載するものです。

孫正義氏が目指すのが、より体系的で組織だった新たな投資会社の姿だ。世界中の「金の卵」をどう発掘し、誰がどのように投資の判断を下しているのか。既に世界最大規模となりつつある巨大ファンドの知られざる内側に迫った。

(写真=アフロ)
(写真=アフロ)

 ソフトバンクグループの会長兼社長、孫正義氏の夜は遅い。大企業の首脳にありがちな会食のせいではない。自宅に戻った孫氏が向かうのは、オンライン会議システム「Zoom」の画面。ミーティングの相手は、世界中の起業家だ。

 起業家は、ソフトバンク・ビジョン・ファンドから出資を引き出すために、自社の技術や事業モデルをアピールできる。プレゼンテーションに与えられた時間はわずか10分だ。

 次は孫氏のターン。「あなたは世界をどう変えようとしているのか」「このビジネスはどれだけスケールするのか」「リスクをどう考えているのか」……。当該企業を発掘・提案したファンドマネジャーが見守るなか、矢継ぎ早の質問が飛ぶ。

毎日2~3社と「真剣勝負」

 ミーティングは30分で終了し、出資にゴーサインを出すかどうかの決を孫氏が下す。初めての出資だけではなく、追加出資のケースでもこうした機会が設けられるという。

 「判断を間違えると数百億円を失う。まさに真剣勝負」。孫氏がそう語る起業家たちとの「30分1本勝負」は、時差の関係で日本時間の深夜や早朝にセッティングされることが多い。毎日2~3社はこなすという孫氏は「大ぼらかもしれないが、実に痛快。夜中だけど興奮してくる」と笑う。

 2017年のビジョン・ファンド始動から4年半。21年9月末時点で出資先は約400社と、半年で144社増えた。営業日ベースで1日1社以上という驚異的なペースだ。

 米調査会社クランチベースによると、21年7~9月、ビジョン・ファンドがリード投資家を務めた出資案件の合計額は166億ドル(約1兆8900億円)。2位の米タイガー・グローバル・マネジメントの2倍以上で、世界の主要ベンチャーキャピタル(VC)を圧倒する。

出所: 米クランチベース
出所: 米クランチベース
[画像のクリックで拡大表示]